名レースを期待

2013年03月16日(土) 12:00

 いよいよOGG三強がそれぞれ2013年の始動戦を迎える。

 オルフェーヴルは再来週31日の大阪杯に向けて14日、栗東トレセンの坂路で2週前追い切りを行った。ジェンティルドンナは栗東で検疫に入り、来週22日にドバイに向けて出国し、30日のドバイシーマクラシックに参戦する。そして今週17日、ゴールドシップが阪神大賞典に出走する。

 阪神大賞典は毎年多頭数にはならず、今年は9頭立て。このぐらいの頭数だとペースが緩くなるので折り合いに難のある馬は早々に脱落する。また、前が詰まったり、大きく外を回らされたりということもないので、スタミナを武器とする強い馬が存分に力を発揮できる。名勝負、名レースが多くなるのは、だからだろう。

 阪神大賞典の名勝負として――というか、日本競馬の名勝負と言ってもいいような気もするが、まず挙げられるのは武豊・ナリタブライアンと田原成貴・マヤノトップガンが3コーナーから馬体を併せ、後ろを10馬身ほど置き去りにして800メートルほども叩き合いを繰りひろげた96年のレースだろう。「世紀のマッチレース」とも「平成の名勝負」とも言われたあのときは10頭立てであった。2頭の名馬の走りと、ふたりの長身の名手腕比べは今ビデオで見ても声が出そうになるほど壮絶で、そして何よりカッコよかった。

 ブライアンとトップガンが最後の直線に向いたとき、「今、自分たちはすごいものを見ている」とリアルタイムで確信でき、びっしり叩き合う2頭だけの世界に総毛立ち、横並びのままフィニッシュした瞬間、あまりの強烈さに目も口もポカンとあいたままになってしまった、あの名勝負。今走っている馬たちに、またああいうレースを見せてもらえないものだろうか。

 今年のメンバーを見てみると、一強の内田博幸・ゴールドシップに、スタミナ自慢の武豊・デスペラードと、勢いのある福永祐一・ペールドインパクトらが挑む、という構図になっている。96年の再現を望むのは、ちょっと難しそうだ。感じとしては、天皇賞父子3代制覇をなし遂げるための前哨戦とし武豊・メジロマックイーンのコンビ初戦となった91年か、このコンビが岡部幸雄・トウカイテイオーとの「天下分け目の決戦」に臨むべくステップとした92年のようになるのではないか。

 9頭立てだった91年はマックイーンが横綱相撲をとり、1着から3着まで人気どおりに決まり、6頭立てだった92年はマックイーンが2着を5馬身突き放し、そこから3着までは9馬身ちぎれていた。母の父であるメジロマックイーンから受け継いだ「圧勝のDNA」を、ゴールドシップはどのような走りで見せてくれるだろうか。マックイーンが見せてくれたように、阪神大賞典は「圧勝劇の宝庫」になっており、先述した「世紀のマッチレース」を挟み、前年の95年はナリタブライアンが2着を7馬身、翌年の97年はマヤノトップガンが3馬身半、2000年は僅差で勝つことの多かったテイエムオペラオーが2馬身半、01年はナリタトップロードが8馬身、そして06年はディープインパクトが3馬身半突き放して勝利をおさめている。

 今振り返ると滑稽にさえ思えるのだが、06年の阪神大賞典は、ディープにとって、初めて敗れた有馬記念以来の実戦だっただけに、私は、無敗のまま三冠馬となった強さを本当にまた発揮してくれるのかどうか、心配しながら見守っていた。「あれがディープなんですよ」レース後、管理者の池江泰郎調教師(当時)は微笑んだ。その短い言葉の裏に、有馬記念で本当のディープの姿を見せられなかったことの無念も感じられた。

 あのとき2着だったトウカイトリックが11歳になった今年も参戦し、これで8年連続出走となるのもすごいことだ。そろそろまたとてつもない名勝負、名レースを見たいという気持ちは、私なんかよりトウカイトリックのほうが強いかもしれない。いや、彼は自分でそういうレースをしたい、と思っているのか。

 出走頭数がひと桁となるのは、ディープとトリックで決まった06年以来7年ぶりのことである。名レースを期待しながら、第61回阪神大賞典のゲートが開くのを待ちたい。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

新着コラム

コラムを探す