2013年03月27日(水) 18:00 10
ばんえい記念を楽しむ観客たち
3月24日(日)、帯広競馬場で第45回ばんえい記念が行われた。年度の最終週を飾る大一番がこのばんえい記念だ。歴史も古く、過去に数々の名馬たちが名勝負を繰り広げてきた伝統の一戦である。何を措いてもこの日だけは帯広に行く、という熱心なファンが全国各地にいる。今年も本州方面から遠征してきたと思しき大勢の人々が、レースごとにエキサイトゾーン沿いに並んで歓声を上げながら応援する光景が見られた。カメラの装備率も高かった。第1レース発走は午前11時で、この時にはすでに場内に相当数の入場者がつめかけていた。大一番を盛り上げるために場内では様々なイベントが企画されており、いつもより華やいだ雰囲気が漂う。日高からやってきた人々も多かった。育成牧場の乗り役もいれば生産牧場で働く女性もいる。BTC育成調教技術者養成研修30期生たちもバスに乗って全員で訪れていた。この日組まれているのは全12レースだが、ばんえい記念を除く11レースがすべて「協賛レース」となっている。SPCとかちむら株式会社(競馬場構内にある物産店と飲食店などが並ぶ観光ポイントを運営する)、札幌テレビ、十勝川温泉観光協会、サッポロビール、十勝毎日新聞社、北海道新聞社など、関係団体や会社などの名前がズラリと並び、年度末の大一番を盛り上げようと総力を結集している印象だ。
第11レースに組まれているばんえい記念は農林水産大臣賞典で、現役の一線級が顔を揃えた。このレースを最後にすでに引退が決まっているカネサブラックとナリタボブサップの11歳コンビもここに照準を合わせてきた。1着賞金は300万円。このところの馬券売り上げ低迷が祟り、ついに昨年よりも200万円の削減となった。10年前には1000万円だったことを思えば何とも複雑な心境だが、その代わり、このレースには“副賞”として、馬主100万円、調教師50万円、騎手30万円、厩務員20万円の計200万円が計上されている。これは仄聞するところによると、ゴールドシップ(昨年のGI3勝馬)のオーナー小林英一氏が、ばんえい競馬の賞金のあまりの安さに驚き、昨年の菊花賞の後に1000万円を寄付したのがこの財源になっているという。小林氏自身、ばんえい競馬の馬主でもあり、ばんえい記念にも所有馬が出走している(9番シベチャタイガー)。
前代未聞の“美談”という他ないが、実際にばんえい競馬の賞金はかなり厳しく削減されており、第1~第8レースまでは1着賞金が10万円にも満たない。売り上げ金額によって賞金が増減するシステムなので、下級条件ではとりわけ少額に抑えられている。しかも、1着賞金が7万円の場合、出馬表に賞金額の記載があるのは3着までで、4着と5着には交付されない(と思われる)。これは果たして、出馬表に金額を記載すべきかどうか。ここまでくると、かえってマイナスイメージの方が大きくならないか。
好天に恵まれ、場内とどこも大変な混雑であった。早い段階から観客が大勢入場しており、午後になるとますます人が増えてきた。ばんえい記念は午後5時15分出走である。パドックに出走各馬が現れると十重二十重に取り囲んだファンからカメラのシャッター音が一斉に聞こえてきた。各馬はきれいに飾り付けられ、ゆっくりと周回して行く。
スパートするギンガリュウセイ
西に大きく傾いた太陽が没する頃に、ようやくファンファーレが鳴り響き、いよいよゲートが開いた。ばんえい記念の斤量は1トン。通常は600~700キロ程度の斤量だが、この大一番だけは別格の重量だ。その分だけ牽引力が要るわけで、時間もかかる。とりわけ第二障碍の前で息を整えた各馬が、そこから少しずつ橇を曳き、じわじわと障碍を上がって行く場面は見ているだけで力が入る。レースは大本命のカネサブラックがいち早く第二障碍を越え先行し、そのまま逃げ切りかと思われたが、やや遅れて第二障碍を上り終えたギンガリュウセイが猛然とスパートしカネサブラックに並ぼうとする。正面から見ていると、どちらが先なのか分からないくらいに拮抗した展開となった。
1着に入線したカネサブラック
結局、最後の力を振り絞ったカネサブラックが1着に入線し、1.9秒遅れてギンガリュウセイが2着。3着はホクショウダイヤという結果であった。カネサブラックはこれで通算成績を186戦72勝とした。うち重賞21勝目はばんえい競馬史上最多記録である。父カネサスピード、母カネサウイン。牡11歳。松田道明騎手、松井浩文厩舎所属、馬主は(有)トーヨーファーム。これで現役を引退し、網走の牧場で種牡馬入りすることになっている。
この日の帯広競馬場には前年より約1100人多い5194人もの入場者が集まり、売り上げも前年比増の1億2577万円であった。なお、ばんえい競馬は翌25日(月)で2012年度の全日程を終了した。26開催153日間で、総発売額は104億9453万8400円。1日平均で6859万円である。
ばんえい記念口取り
電話及びネット投票、他地区の場外発売が伸びているものの、本場と直営場外での売り上げがいずれも前年比-18%と大きく落ち込んだことから、2013年度は、売り上げの見込めるナイター開催をさらに増やし、開幕から11月18日までの95日間(+17日)となる。新年度は4月14日に開幕し、来年3月24日までの153日間を予定している。入場者は着実に増えているものの、それがなかなか本場での売り上げ増につながらない点が問題だが、何とか「世界で唯一の競馬」であるばんえいの灯が絶えることなく続いて欲しいと願わずにはいられない。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。