武兄弟ワンツーなるか

2013年04月06日(土) 12:00

 今週末の桜花賞では武兄弟によるワンツーフィニッシュが期待できそうだ。

 武豊騎手はチューリップ賞を楽に逃げ切ったクロフネサプライズ、武幸四郎騎手はフィリーズレビューで差し切り勝ちをおさめたメイショウマンボの手綱をとる。

 クロフネサプライズは馬名のとおり、いくつかの意味で武豊騎手を驚かせたようだが、私がたまげたのはチューリップ賞の3、4コーナーを回るときの「耳」だった。普通の馬は、いわゆる勝負どころで加速するとき、耳を後ろに絞らせ、全力で走りに集中するものだ。

 ところがあのときのクロフネサプライズは涼しい顔で、耳をピンと立てたままだった。

 馬房にいる馬が耳を絞らせていたら急に噛みついてきたり暴れたりするので要注意、耳を立てていたら撫でても大丈夫--というふうに、耳は馬の気分を読みとるうえで重要なサインになるのだが、あの馬は、人間にナデナデされてもいいような精神状態で桜花賞トライアルの勝負どころで加速し、後ろを突き放してしまったのである。

 間違いなく、軽く走っていた。と同時に、後ろから来るかもしれない馬たちのことをまったく気にしていなかった。並みのハートではない。

 武豊騎手が、明らかに勝てるとわかっていながらゴール前でビシッと追ったのは、本番に向けて、全力を出し切らないままフィニッシュする癖をつけたくなかったからではないか。

 おそらく、道中力を抜いて走っているから最後までスピードが落ちないのだろうが、あれでメリハリのあるレースをマスターしたらどれだけ強くなるのか、怖いぐらいだ。

 桜花賞は、ゲートを出てすぐコーナーがあった旧コースで行われていたころは「テンよし、中よし、終いよし」の馬でなければ勝負にならないと言われ、直線の長い新コースになってからも逃げ切るのが難しいレースとされている。しかし、血統や毛色こそ異なるが、この馬の走りには07年の桜花賞でウオッカを下したダイワスカーレットに通じる速力と粘りがある。敵はこの時期の3歳牝馬にありがちな難しさ、つまり自分自身だけだろう。

 史上最多の桜花賞5勝の記録を6勝に伸ばすか、武豊騎手の手綱さばきに注目したい。

 武幸四郎騎手のメイショウマンボは、兄が乗るクロフネサプライズと脚質が対照的なだけに面白い。
 近くで競馬をするわけではないので必要以上に兄を意識せずに済むし、1番人気に支持されるであろう兄の馬を後ろから見ながらレースができるぶん、動き出すタイミングなどをはかりやすいはずだ。

 今週の「週刊ギャロップ」に武兄弟の桜花賞での対戦成績表が掲載されており、それによると過去4戦して2勝2敗の五分である。が、うち1回は兄がファレノプシスで勝った1998年なので、内容的には兄がリードしていると言えよう。

 また、4月5日付の「スポーツ報知」に「武兄弟によるJRA重賞1、2着独占」と題する表が載っているのだが、意外なことに、武兄弟のワンツーフィニッシュは2000年の日経新春杯(兄1着マーベラスタイマー、弟2着メイショウドトウ)と04年の小倉記念(兄1着メイショウカイドウ、弟2着メイショウバトラー)の2回だけだという。

 --GIでも確か1回、武幸四郎騎手が勝ったように見えたが負けていた、というワンツーがあったよな。
 と調べてみたら、それは私の記憶違いで、実際は「ワンスリーフィニッシュ」だった。兄のトゥザヴィクトリーが勝って、弟のティコティコタックが3着だった01年のエリザベス女王杯である。あのときは1着から5着までハナ、ハナ、クビ、クビという大接戦で、傍目にはもちろん、乗っていた騎手たちも誰が勝ったのか写真判定の結果が出るまでわからなかったようだ。

 兄弟騎手によるGIのワンツーフィニッシュは、いまだ達成されていないのだという。

 武幸四郎騎手はこれまでGIを3勝しており、初勝利がこのティコティコタックによる00年の秋華賞、2勝目がウインクリューガーでの03年NHKマイルカップ、3勝目がソングオブウインドでの06年菊花賞。今週の桜花賞で、それ以来の4勝目を狙うことになる。

 武豊騎手は去年のマイルチャンピオンシップ以来のGI・67勝目を獲りに行く。

 兄の背中を見ながら、弟が猛追をかける--そんなシーンが見られるのかと思うと、第73回桜花賞のゲートがあくのが、さらに待ち遠しくなる。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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