2013年04月09日(火) 18:00 22
3月24日、広島県にある福山競馬場が、63年の歴史に幕を下ろしました。最終日当日は開門前からたくさんのファンが列を作り、最終的な入場人員は1万人を突破!多くの人々が、福山の廃止を惜しみました。関係者、ファン、主催者、そして馬たち…。さまざまな想いが交差した、福山競馬最後の日をリポートします。
第1レースのファンファーレが鳴り響き、最終日のレースが始まった。勢いよく飛び出したエムエスガンバと松井伸也騎手が、一度も先頭を譲ることなくゴールする。普段なら、これで1レースが終わるけれど…この日は違っていた。
場内から“さぶちゃん”コールが起こった
第2レースは、激しい追い比べを制してハンガンボンズと佐原秀泰騎手が勝利した。先頭でゴール板を駆け抜けると、そのまま止まらずにもう1周流してスタンド前をウィニングラン。場内から大きな拍手が送られた。藤本騎手、そして佐原騎手の行動をキッカケに、その後のレースでもゴール後にスタンド前まで戻る人馬が続出。周藤直樹騎手は、自身の引退レースとなった第10レース後、馬の上から大きな声で、「ありがとうございました!」とスタンドに向かって頭を下げた。普段なら、公正確保の問題上、コース内からファンとコミュニケーションを取ることは許されていない。それでもこの日は、「少しでも、ファンの方々に気持ちを伝えたい」というジョッキーたちの熱い想いが、行動となって現れていた。
関係者が、ファンに感謝の気持ちを伝えたいと願っている一方で、ただただ無事に一日を終わらせたいと願っている人たちもいた。1万人以上のファンが集まり、最終日ということで気持ちが高ぶっている以上、主催者側の冷静な対応や安全対策は重要なことだと思う。でも、コース側のフェンスから、さらに内側に仕切りを立ててファンを遠ざけたり、最終レースが終了するまでジョッキーの取材をしないで欲しいというマスコミ対応など、最後の最後まで、現場の気持ちを無視した動きも見られた。ファンからの意見や、現場の人たちが頑張ってくれて改善された部分もあったけれど。ここまで来てもまだ、大事なことがわからないのか…。愕然としたのは、わたしだけではなかったと思う。
最終レースは、第12レースに組まれたファイナルグランプリ。ファン投票が行われ、第1位になったのは、長年福山で活躍して来た8歳のクラマテングだった。2歳の終わりに福山にやって来て、35勝(重賞11勝)を挙げた福山のトップホース。しかし、昨年の後半から体調を崩し、ここ最近は全盛期の輝きを失っていた。コンビを組む嬉勝則騎手は、ファン投票1位と聞いて驚いたそう。
クラマテングと嬉勝則騎手
嬉騎手にとっても、長年コンビを組んだクラマテングは想い入れの強い1頭だという。ファンの気持ちと自身の想いを乗せて、最後のレースへ向かった。
最終レースのファンファーレが鳴り、枠入りが始まる。次々に出走馬たちがゲートインして、大外枠のグラスヴィクターを残すのみとなった。これで本当に最後なのか…。終わってしまう悲しさと、まだ全く実感が沸かない虚しさが交差する。
グラスヴィクターが枠入りを拒否した。鞍上の佐原騎手に促されても、立ち止って反抗している。なんだか、気持ちを代弁してくれているようだった。このまま、入らなければいいのに…。最後のレースなんて、スタートしなければいいのに…。しばらく反抗した後、グラスヴィクターがゲートイン。最後のレースがスタートした。
最後のレースを勝ったビーボタンダッシュ
レースは2周目に入り、クラマテングは失速。逃げるホッカイキコチャンと、追うビーボタンダッシュの一騎打ちとなった。激しい追い比べを制した三村展久騎手は、ビーボタンダッシュの背中で力強くガッツポーズ。場内からは歓声が巻き起こった。そして、先頭から大きく遅れて最後方でゴール板を通過したクラマテングにも、ファンから惜しみない拍手が送られた。競馬において、後方でゴールした馬が称えられることはない。でもこの日は、力を振り絞ってフラフラになりながらもゴールしたクラマテングに、勝者と同じく大きな拍手が送られたのだった。
騎手一人一人がファンへ挨拶
この日、来賓席にはJRAや南関東の厩務員会を代表する人たちが来ていた。廃止になる競馬場の関係者が、どんな想いで最終日を迎えるのか。たくさんのファンが、どんな表情で見守るのか。「他人事じゃないから」と、廃止という現実をそれぞれの目に焼き付けていた。現場レベルでは、もう地方も中央もない。みんなが危機感を持って、大好きな競馬を失くさないために頑張っている。残念ながら、福山ではその努力は実らなかったけれど…。でも、努力したことは決して無駄じゃない。
のどかな景色だった福山競馬場のゴール前
◆次回予告
次回の「競馬の職人」は、引き続き赤見千尋さんが美浦からレポート。競馬界の旬なネタをお届けします。公開は4/16(火)18時、お楽しみに。
常石勝義
常石勝義
1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30~)に出演中。