アニマルキングダムの馬主と調教師が決別

2013年04月10日(水) 12:00

 ドバイワールドナイトの余韻冷めやらぬ4月5日(金曜日)、メイン競走のG1ドバイワールドC(AW2000m)を制したアニマルキングダム(牡5、父ルワーデザニモー)の馬主と調教師が決別という、信じがたいニュースが飛び込んで来た。

 アニマルキングダムを所有するチーム・ヴェイラーが、アニマルキングダムを管理するグラハム・モーション調教師に対し、チーム・ヴェイラーの馬だけを管理する専属調教師となることを要求。これに対し、他の馬主の所有馬も管理するパブリック・トレーナーとしての立場を堅持することを主張したモーション調教師が対立。話し合いは不調に終わり、チーム・ヴェイラーはモーション厩舎に預託していた現役馬を、1頭を除いてすべて引き上げることを決めたのだ。

 その1頭の例外とは、他ならぬアニマルキングダムで、6日(土曜日)にドバイからイギリスに向けて輸送された同馬だけは、モーション厩舎所属のまま、6月のロイヤルアスコットを舞台としたG1クイーンアン(芝8F)かG1プリンスオヴウェールズS(芝10F)を目指すことになった。

 グラハム・モーションが、チーム・ヴェイラーの北米における主戦厩舎に指名されたのは、10年11月初旬のことだった。

 その直後、その年の春からモーションが管理していたチーム・ヴェイラー所有馬のジプシーズウォーニングがG1メイトリアークS(芝8F)を制覇。

 翌11年5月には、2歳時にはウェイン・カタラーノが管理していたアニマルキングダムで、G1ケンタッキーダービー(d10F)を制する快挙を達成。更に同年8月には、前年までラリー・ジョーンズが管理していたサマーソワリーでG1デルマーオークス(芝9F)制覇と、ヴェイラーとモーションのタッグは次々とメジャータイトルを獲得していった。

 12年はG1制覇こそなかったものの、ウェントザデイウェルでG3スパイラルS(AW9F)を、ハットトリック産駒のハウグレートでG3パームビーチS(芝9F)を制した他、秋にはアニマルキングダムがG1BCマイル(芝8F)で2着になるなど、まずまずの成績を挙げている。

 グラハム・モーションは、1964年5月22日にケンブリッジで生まれた英国人だ。ブラッドストックエージェントを営んでいた父親が、ニューマーケットに拠点を置くオークション会社タタソールズ社の北米代表に就任したのをきっかけに、一家は北米に移住している。

 21歳となった85年から、ジョナザン・シェパード調教師のもとでアシスタントとして働きはじめたモーションは、90年に見聞を広げるため渡仏。ジョナサン・ピース厩舎で研修している際に、アラン・ド・ロワイヤデュプレ厩舎で働いていた現夫人のアニタと出会っている。91年に北米に戻り、バーニー・ボンド厩舎のアシスタントを務めた後、ボンド師の引退に伴い管理馬とスタッフをそのまま引き継ぐ形で自らの厩舎を開業。初年度にいきなりガラスピナウェイでG3ポリネシアンHを制し、モーション厩舎は順調な滑り出しを見せた。

 G1初制覇は、03年にフィルムメイカーで制したG1クイーンエリザベス2世CC。更に翌04年、ベタートークナウでG1BCターフを制し、モーション厩舎は一流の座に駆け上ることになった。

 現在はメリーランド州のフェアヒルトレーニングセンターを本拠地としている他、ニューヨーク州サラトガ、ケンタッキー州キーンランド、デラウェア州デラウェアパークにも馬房を持つモーション師。フランスの大馬主ニアルカスファミリーもクライアントのひとりで、客観的に見て、チーム・ヴェイラーからの専属調教師としてのオファーは、モーション師にとって受けられる類のものではなかったようだ。更に言えば、チーム・ヴェイラーの主宰者バリー・アーウィン氏は、「気難しい変人」として有名な人物で、モーション師とすれば2年間お付き合いすれば充分という気持ちもあったはずだ。

 モーション師に代って、5月1日からチーム・ヴェイラーの専属調教師を務めるのは、リック・メッティー師だ。90年代にチーム・ヴェイラー所有馬を預かったことのあるメッティー師の、現在の職は、シェイク・モハメドが率いるゴドルフィンの、北米における厩舎のアシスタントである。もっとも、調教師として登録されているサイード・ビン・スルール師の本拠地はドバイと欧州で、ゴドルフィンの北米における成功は、リック・メッティーの手腕によるところが大きいと言われている。

 実は、ドバイワールドCの直後、アニマルキングダムの権利の29%をシェイク・モハメドが取得したのだが、おそらくはそのディールに並行して、メッティー師の移籍話も進められたものと推測されている。

 モーション厩舎、メッティー厩舎の今後に注目したい。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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