2013年04月17日(水) 12:00
4月も後半に入ったこの時期、アメリカの競馬ファンが大きな関心を寄せるのが、5月4日にチャーチルダウンズで行われるG1ケンタッキーダービー(d10F)へ向けた、騎手のシャッフルに関する情報だ。お手馬が重なっているトップジョッキーが、どの馬を選択するのか、鞍上が空いた馬の代役には誰が指名されるのかは、馬券検討の上でも極めて重要なファクターとなるからだ。
今年、話題の中心にいた、というか、玉突きのきっかけとなったのは、東海岸のトップジョッキー、ジョン・ヴェラスケスだった。4月6日にニューヨーク州アケダクトで行われたG1ウッドメモリアルS(d9F)を制してデビュー以来の成績を4戦4勝としたヴェラザノ(牡3、父モアザンレディー)と、3月30日にフロリダ州ガルフストリームパークで行われたG1フロリダダービー(d9F)を制し、デビュー4戦目に初勝利を上げてから4連勝を飾ったオーブ(牡3、父マリブムーン)という、デイリーレイシングフォームの想定オッズでは本番で1、2番人気が予想される2頭の、主戦を務めているのがヴェラスケスなのだ。
いずれも充分にダービーを勝つ力量がある馬であることに加えて、ヴェラザノを管理するトッド・プレッチャー調教師も、オーブを管理するシャグ・マゲイヒイ調教師も、ヴェラスケスにとっては大恩ある人物だけに、極めて難しい選択であることは傍から見ていても良く判った。
で、いよいよどちらかを選ばなければならない時期が来たのだが、そのさなかに起きたのが、ヴェラスケスの落馬事故だった。ヴェラザノでウッドメモリアルSを制した翌日の4月7日、同じアケダクト競馬場の第7競走で落馬。近くの病院に搬送された同騎手は、右肋骨の骨折、及び、右手首の剥離骨折と診断され、しばらく戦列を離れることになったのである。
この段階で、ケンタッキーダービーまで4週間。果してヴェラスケスは戦列に戻れるのか?! 1・2番人気の鞍上がともに空位になるというまさかの事態となるのか?! 両陣営は言うに及ばず、ファンも重大なる関心を持つことになった。
ヴェラスケス本人は直ちに、ダービーまでには何が何でも復帰すると宣言。その後、医師団と相談した上で、ダービーを3日後に控えた5月1日から騎乗を再開するプランが発表されたが、当人の思惑通りに事が運ぶかどうかは、怪我がどれだけ順調に回復するか、その進捗度合い次第と言えよう。
そして、乗ると宣言したケンタッキーダービーで、ヴェラスケスがパートナーに選択したのがヴェラザノで、この段階でオーブの鞍上が空くことになった。
ヴェラスケスに断られたオーブの陣営がオファーを出した相手は、ジョー・ロザリオ。デビュー戦から、2勝目となった条件戦まで、オーブの手綱をとっていた騎手である。そしてこの段階で、今度は、ロザリオが二者択一を迫られることになった。
ヴェラザノと同じようにデビューから無敗でG1ウッドメモリアルSに向かい、ヴェラザノに続く2番人気に推されたヴァイジャック(セン3、父イントゥミスチフ)が、ロザリオのお手馬だったのだ。ウッドメモリアルSこそ3着に敗れたものの、前走のG3ゴーサムS(d8.5F),前々走のG3ジェロームS(d8F40y)の勝ち方は鮮やかで、ヴァイジャックも充分にダービー制覇の可能性がある馬だった。
熟慮の末、ロザリオはケンタッキーダービーでの騎乗馬にオーブを選択。空いたヴァイジャックの鞍上には、ギャレット・ゴメスが指名されることになった。
続いて選択を迫られることになったのが、ハヴィーア・カステラーノだ。カステラーノは、3月30日にフェアグラウンズで行われたG2ルイジアナダービー(d9F)を制し、前走のG3ウィザーズS(d8.5F)に続く重賞連勝を果したレヴォリューショナリー(牡3、父ウォーパス)と、前出のG1ウッドメモリアルSでヴェラザノの2着に入ったノルマンディーインヴェイション(牡3、父タピット)の、いずれに乗ることも可能だったのだ。
カステラーノがケンタッキーダービーでの騎乗馬に選択したのはノルマンディーインヴェイションで、この段階でレヴォリューショナリーの鞍上が空くことになった。
ここで、実にユニークな手に打って出たのが、レヴォリューショナリーを所有するウィンスターファームだ。ウィンスターファームには、ウィンスターファーム・ステーブルメイツと称する、会員制のファン組織があるのだが、ケンタッキーダービーでレヴォリューショナリーの手綱をとるのに相応しい騎手は誰か、ファンの声を聞いてみようということになったのだ。
具体的には、声をかければ乗ってくれそうな一流騎手として、ラファエル・ベハラーノ、カルヴァン・ボレル、ジュリアン・レパルー、ロージー・ナプラヴニク、マイク・スミスらの名前を挙げ、誰に乗って欲しいか、ウェブサイト上でファン投票が催されることになったのである。
投票結果通りのブッキングが実際に出来るのかどうかは不明だが、ファンが競馬をより身近に感じることが出来るという意味で、興味深い取り組みだと思う。
あと1週間で、有力馬の動向と騎手を巡るシャッフルにも目途が立つので、来週のこのコラムでは、ケンタッキーダービーの包括的な展望を行いたいと思っている。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。