速歩から駈歩へ

2013年05月15日(水) 18:00

31期生訓練風景1

31期生訓練風景1

31期生訓練風景2

31期生訓練風景2

 BTC育成調教技術者養成研修第31期生21名が訓練を開始してちょうど1か月が経過した。このほど、その訓練風景を取材すべく開講式以来久々にBTCを訪れてみた。開講式の頃にはまだ全く身についていなかったヘルメットやプロテクターなどが、この1カ月間にずいぶん「見られるように」なった。日々の作業や乗馬訓練を経験してきたことで体が慣れてきたのと同時に、少しずつ自信も出てきているのだろう。それが動作や表情に表れている。

 ちょうど乗馬訓練では、初歩的な常歩から速歩、軽速歩までの段階を終わり、いよいよ駈歩の段階に入ったところである。「馬の顔をやや外側に向けながら、手綱を短く持ち、右足で脚を入れて、駈歩になったら姿勢をきちんと保つように」などと教官の指示が飛ぶ。21名が2つの班に分けられ、それぞれ交代で“未知のゾーン”とも言うべき駈歩に挑む。

 馬は4頭〜5頭ずつが充てられ、研修生の先頭で教官が見本を見せる。難なくこなす教官とは違い、研修生の動きはまださすがにぎこちない。1人ずつ細かなアドバイスが送られる。何か指示がある度に「はいっ」と元気よく研修生が馬上から答える。その繰り返しである。

 軽速歩から駈歩になると、俄然スピードが上がり、途端にバランスを保持し続けるのが難しくなる。鐙も短くされて、研修生たちはそれぞれ戸惑いながらも必死に姿勢を保とうとしている。まだ訓練は覆馬場で行われているが、このまま駈歩での訓練を繰り返し、来月からは外の角馬場に、そして1周800mあるダートコースへと訓練の場が移される。

 31期生21名の中には高校馬術部出身者が3名いるが、それ以外はほぼ未経験者だ。しかし、教官たちはあまり経験の有無を重視していない。

31期生訓練風景3

31期生訓練風景3

31期生訓練風4

31期生訓練風景4

 斉藤昭浩教育係長によれば「もちろん経験者は未経験者と比較すると有利なことは間違いありませんが、徐々に訓練メニューがランクアップして行くうちに、未経験者との差がなくなってしまいます」とのこと。その第一段階がこの駈歩に移行する時だという。「高校の馬術部では鐙を長くして乗りますが、ここでは競走馬の育成現場で働けるようになることが目標ですから、その分だけ鐙も最初から短くしますし馬術の基本を丁寧に繰り返し教え込むような余裕がないのです」(斉藤係長)

 この駈歩による訓練が始まると、経験の有無がそれほど感じられなくなり、やがて傍目からはそれが見分けられなくなるらしい。ともあれ月日の経つのは本当に早い。つい1か月前に開講式を迎えたばかりだと思っていたら、もう訓練がどんどん進んでいる。来月、馬場入りして駈歩による訓練が入念に繰り返されるようになったら、すぐに夏の牧場実習が待っている。無我夢中で日々の訓練をこなしているうちに季節がいつの間にか夏から秋に移っている、といった感じだろうか。

 なお31期生は大半が高卒でここに入ってきた若者たちだ。その中にあって20代半ばを過ぎているのが中村宏昭さん(26歳)と寺村賢二さん(28歳)の2人。年長者の寺村さんが寮長を務めている。また中村さんは長崎県出身で元航空自衛官という変わり種だ。いずれまたこの2人を中心に、今度は訓練風景のみならず寮生活や研修生の内面にも踏み込んでお話を伺えたら、と考えている。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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