ウインズ静内、営業終了

2013年05月29日(水) 18:00

 1978年(昭和53年)に開設された日高で唯一のJRA場外馬券売り場であるウインズ静内が、5月26日(日)、35年間の歴史に幕を閉じた。

 この日は、東京競馬場で日本ダービーが行われ、ウインズ静内の最終日としてもふさわしい賑わいが期待された。

この日の静内も朝から好天

この日の静内も朝から好天

 東京が晴天に恵まれたのと同様に、この日の静内も朝から好天で、この時期らしい爽やかな風が吹く絶好の青空。さぞ混雑しているであろうと思いながら、私も日本ダービーをウインズ静内で見たくなり、出かけることにした。

 正午過ぎに静内に到着した。私宅からは小一時間の距離である。7月〜10月までせりが開催される北海道市場の東側にウインズ静内は建つ。ドーム状の屋根を持つこの建物になってから20年が経過した。

 グリーンチャンネルとPATの普及により、私自身もウインズにはずいぶんとご無沙汰であった。だが、予想に反して、すぐ隣にある駐車場にはまだ空きスペースがあった。

 どことなく閑散とした感じだが、それでも前庭には露天が並び、フワフワホースなども設置されている。椅子とテーブルが並べられ、家族連れの来場者がそこで過ごせるようにと配慮されていた。

 入口の横には来場者を対象に「ウインズサンクスプレゼント抽選会場」なるテントもある。馬券購入500円以上で1人1回、ここで籤を引き、A賞〜C賞までのプレゼントが配られるのだ。

 しかし、列ができるほどの人が並んでいるわけではなく、レースごとに何人かが訪れては馬券を提示し、ガラガラと抽選箱を回す程度であった。

ウインズ静内、中の様子

ウインズ静内、中の様子

 場内に入ると、まだ昼休みのせいもあってか、固定席には余裕がある。全体にのんびりとした雰囲気で、「今日で最後」というような物悲しい雰囲気ではない。いささか当てが外れたような思いで私も席を確保した。

 前に座っているのは、常連客の60代後半と思しきご夫婦だ。何気なしに聞こえてくる会話から判断すると「ほとんど毎週来ている」熱心なファンのようであった。

 定年後の愉しみとして、ここで土日を過ごしながら馬券を買うのであろう。「ここがなくなったら、どうされるんですか?」と不躾ながら尋ねてみたら「静内にはもう一か所、アイバ(Aiba)があるけど、あっちには行かないな、たぶん」と意外なことを仰る。「あっちはね、ここの三分の一くらいのスペースしかないし、椅子も少ない。そして、こんなテーブル(と椅子と椅子の間のテーブルを指さして)もないしね」と言い「駐車場も狭いからなぁ」と付け加えた。

 すべてにおいてこのウインズ静内と比較すると「居心地が良くない」のだそうである。見ていると、ご夫婦はそれほど馬券購入に熱中しているわけではない。何となくしゃべりながら、少額ずつを買う。ここで過ごす時間が長いので、ゆったりと競馬を観戦し、思い出したようにマークシートを塗りつぶしては窓口に向かう。その繰り返しである。

 このご夫婦のように、場内にいるファンは年配者が少なくなかった。平均年齢はかなり高い印象で、圧倒的に男性が多い。それぞれ“定位置”の座席を確保し、優雅に競馬を愉しむ。これはこれで大いに結構なことだが、その分だけこの施設は単体で年間赤字額が2億円にも達していた。だからこそ閉鎖に追い込まれたのだが・・・。

 午後になり、いくぶん場内に人が増えたものの、予想していたような「黒山の人だかり」にはほど遠い。

 来場者を対象として配布されるプレゼント抽選会も続行中である。A賞とB賞はオリジナルタンブラーやマグボトル(保温式水筒)などでそれぞれ10名と20名だが、C賞のマフラータオルは1500名分が用意されており、結局ダービーが終わるまで抽選会は続いた。

ウインズ静内前庭風景

ウインズ静内前庭風景

 立錐の余地もないくらいの賑わいを覚悟していたので、正直なところやや拍子抜けした。最終日のこの日は、終わってみれば延べ4100人が来場し、約2100万円を売り上げたというが、単純に割り算すると1人当たり約5000円程度の購入である。それだけ健全とも言えるが、少額の馬券を購入しながら終日ここで過ごす年配者ばかりでは、この施設は運営が成り立たないのであろう。

 日高管内では現在、他に門別競馬場でも中央の馬券を発売するようになっており、客が分散しているのは間違いないものの、馬券購入の利便性が高まるにつれて、この施設の集客力が落ちたのは明らかで、ややさびしい幕切れであった。

 これで“空き家”になってしまうこの建物は、今後どのような利用が可能か。これから北海道市場でせりが開催される度に、否が応でもこの建物は視界に入って来る。何とも気になるところだ。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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