オルフェのいない11頭、ではなく

2013年06月15日(土) 12:00

 来週の宝塚記念に向けて仕上げられていたオルフェーヴルが、今週木曜日(13日)に運動誘発性肺出血を発症し、同レースを回避することになった。

 即座に列島を駆けめぐった、この「オルフェショック」の衝撃は、他馬の関係者もしばし言葉を失うほど大きかった。

 だが、症状としては初期の段階なので、比較的短期間で回復が望めそうだという。肺出血が確認された13日の午後、会見に臨んだ池江泰寿調教師は、引きつづき10月6日の凱旋門賞を目標にする、と語った。

 それを知ってか知らずか、肺出血のニュースが流れてから24時間以上経過した日本時間14日の夜、三大ブックメーカーのウィリアムヒル、コーラル、ラドブロークスのサイトを見ると、凱旋門賞のオルフェのオッズは、それぞれ1番人気タイの6/1、単独2番人気の6/1、2番人気タイの7/1となっており、オルフェショックの影響は感じられない。「出走してくる限りは怖い」と見ているのか。

 いずれにしても、23日の宝塚記念が、最多でも11頭という少頭数になることは確かだ。

 春に一度ピークまで仕上げた馬たちを、どんどん暑くなる時期に再度仕上げなければならないタイミングだけに、もともと頭数が揃いにくいレースではあるが、それでもやはり、オルフェがいないのかと思うと、11頭というのが急に寂しく感じられる。

 「『OGG三強』による初の直接対決」が最大の見どころだった数日前までは、12頭を少ないとは思わなかった。むしろ、競馬について回る「障害物競走」としての要素が弱まり、純然たる「能力比較競走」としての意味合いが強くなるプラス材料として(少なくとも私は)とらえていた。

 過去10年の宝塚記念で一番頭数が少なかったのは、ディープインパクトが凱旋門賞参戦前の「壮行レース」として出てきて圧勝した2006年の13頭。

 過去20年までさかのぼると、テイエムオペラオーが勝った00年と、メジロマックイーンの最後のGI勝利となった1993年が11頭と最少になっている。

 やはり少頭数になると、強い馬が力を出し切って紛れがなくなるのか、と思いきや――。

 過去30年まで見ていくと、10頭立てが3回あって、3回とも1番人気が敗れている。85年の1番人気ステートジャガーは4着(1着スズカコバン)、90年のオグリキャップは2着(1着オサイチジョージ)、91年のメジロマックイーンも2着(1着メジロライアン)と、オグリやマックイーンのような歴史的名馬が苦杯を嘗めている。

 こうして10年ごとに区切って「最少頭数」の宝塚記念を振り返ると、本命馬が勝ったり負けたりしているものの、どれも強く印象に残るレースだったという点で共通している。

 今年の1番人気は……どの馬になるのだろう。オルフェが抜けて、「押し出されての」という感じの馬はいない。最近の充実ぶりと、2200mで勝ち鞍があるということからするとフェノーメノだろうか。

 今年54回目を迎える宝塚記念を連覇した馬はもちろん、2勝した馬はいない。しかし、2年連続2着となった馬は、新しい順に見ていくと、10、11年のブエナビスタ、07、08年のメイショウサムソン、02、03年のツルマルボーイ、87、88年のニッポーテイオーと結構いて、これら4頭すべてがGIホースというのも興味深い。すべてのケースがそうだったと言うつもりはないが、このデータを見ると、やはり「強い馬が獲りこぼしやすいレース」とも言えるのだろう。

 この宝塚記念は、4年早く創設された有馬記念(第1回は「中山グランプリ」)と同じくファン投票で出走馬が決められるので、「春のグランプリ」とも「夏のグランプリ」とも呼ばれている。私もかつては「春の」と「夏の」の両方の呼び方を用いていたが、96年に施行時期が遅くなり、7月初めや6月終わりになってからは、「春」という感じではなくなって、観戦に行くたびに汗まみれになるので、「夏のグランプリ」と書いたり言ったりするほうが多くなった。

 そんな夏のグランプリ。今年はどんな熱戦が繰りひろげられるだろうか。
「オルフェのいない11頭」と思うと寂しいが、「ゴールドシップもジェンティルドンナもフェノーメノもいる11頭」だと思えば、とたんに豪華になった感じがする。トーセンラーもいる。ナカヤマナイトもいる。面白そうである。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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