2013年08月28日(水) 18:00
8月19日より22日にかけて4日間の日程で開催されていた「サマーセール」が終了した。結果はすでに各媒体などを通じてご存知の方も多いだろうと思われるが、とりあえず簡単に数字だけ記しておく。1130頭が上場され、618頭が落札、売却率は54.69%、売上総額は税込で25億3312万5千円。平均価格は409万8908円。最高価格馬は2152万円、最低価格は52万5千円。中間価格は315万円である。
パレードリンクでの周回風景
前年と比較すると、上場頭数は60頭減少したが逆に落札頭数は52頭増加し、売却率は7.13%も上昇した。2004年には1031頭のうち294頭しか落札されない市場(売却率28.52%)だったことを考えれば、売却率は10年間で倍増したことになる。これで平均価格も上がっているのならばまことに喜ばしい限りだが、残念ながら価格は売却率と反比例しており、こちらは10年間で150万円も下落している。かつては市場を通さずにせり後に「庭先」で取引されていたであろう上場馬の多くが、市場で落札されるようになったのは間違いなく、その背景にあるのは、やはり「市場取引賞」の存在によるところが大きい。他に要因が思い浮かばない。
これは、2歳戦に限定されているものの、市場取引馬が地方競馬で1着となった場合、1頭につき20万円(ただし当該競走の1着賞金を上限とする)、中央、地方いずれも2歳重賞及び2歳ダートグレード競走(指定交流)にて1着〜3着に入線した馬に対して、最大で1000万円(中央G1)がそれぞれ交付される報奨金制度だ。主催者にとっても、市場取引馬の中から多くの活躍馬が出てくれるのは何よりの喜びだが、活躍馬が出れば出るほど報奨金の支出額もまた増えて行く。何とも悩ましい部分とはいえ、価格の割に走る馬が多いというムードが醸成されて行けば、やがてサマーセール全体の価格の底上げにもつながるような気もするのだが・・・・。
その一方で、生産者の心中は穏やかではない。やはり「価格があまりにも安すぎる」という声をずいぶん耳にした。今年もかなりの数の上場馬が、お台付け価格を大幅に下回る額でのサインがあり、それを受けるべきか否かについて鑑定人と販売申し込み者(多くが生産者本人である)との間で協議される場面を目撃した。
時間にすればわずか数秒程度のものである。300万円とお台付け価格を届けているにもかかわらず、いきなり100万円などという購買者からの意思表示が寄せられると、生産者としては当惑する。300万円は「希望最低価格」として届けている価格であり、それを下回る額は本来ならば受け入れられないからだ。
だが、そこで100万円のコールを拒否し切れない弱味もある。「ひょっとしたら他に購買希望者がいて、100万円からセリを始めたらすぐに価格が上昇するのではないか」という期待もあるし、「主取りで帰ることだけは避けたい」との思いも強い。価格はどうであれ、ここで売ってしまいたいと多くの生産者が考えているので、こういう場面では100万円からセリが始められることが多い。
3日目の最高価格馬は903番「コスマグレースの2012」
(父マツリダゴッホ)
4日目の最高価格馬は1031番「ヨウヨウの2012」
(父ヨハネスブルグ)
販売する側はできるだけ高く売りたいし、落札する側はできるだけ安く買いたいのが人情だから、しばしばそこで双方の希望が食い違ってくる。購買者にとっては、たとえ当該馬の種付け料がいくらであろうが、生産コストがいくらかかっていようが、あまり念頭にはない。あくまで現時点でその馬に出せる金額がこれだけ、というような認識である。
この温度差はかなり大きい。せり後、主催者の日高軽種馬農協木村貢組合長は、運営面などについては合格点をつけながらも平均価格が下落した点について「悩ましいところで、そこは今後対策を考え行かねばならない」と語った。
一度下がった価格を上昇させるのは容易なことではなく、唯一方法があるとすれば、販売申し込み者が各々「毅然として」お台付け価格からのせりを強く主張することであろう。
しかし、それには上場馬を抱える生産者の意識統一が必要で、「安くてもここで売ってしまいたい」と考えている人が少なからずいる限り、平均価格は簡単に上がらない。それでもあくまでお台付け価格に拘っていると、市場内での取引よりもせり後の「場外取引」の方が盛んになり、売却率は以前の時代と同程度にまで下落するはずだ。
この次はオータムセールになるが、
果たしてどんな結果が待っているのか
この次はオータムセールになるが、果たしてどんな結果が待っているものか。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。