2013年08月31日(土) 12:00 30
<馬産地日高TPP恐々>
これは、私が札幌の実家にいた8月25日、日曜日付の「北海道新聞」の1面トップの見出しである。
さらに、 <産駒売れず「廃業も」 零細多く> という小見出しがつづき、TPP、環太平洋経済連携協定で、アメリカやオーストラリアなどからの競走馬の輸入関税(1頭につき340万円)が撤廃されると、日高の生産馬が売れなくなる恐れがある、といった内容になっている。
読んで驚いたのは、北海道の試算では、競走馬の関税が撤廃されたら、道内の年間軽種馬生産額の約280億円が180億円に減少し、3千人の雇用が失われる、ということだ。1千万円台の中堅クラスの馬に関税がかからなくなれば、高額な優良馬以外の多くが米国産などに取って代わられると見ているがために、こうした試算がなされたようだ。
本当にそうだろうか。
かつて、外国産馬が「外車」と呼ばれ、特に2歳時や3歳の春ぐらいまで、成長の速さと仕上がりの差で日本馬を圧倒していた1990年代なかごろまでならともかく、サンデーサイレンスやトニービンなど世界最上級の血が入ってきてからの日本では、「外車」の脅威はあまり感じられなくなった。
また、記事では日高の生産者にとってのマイナス面ばかりが強調されているが、ブリーダーとして、米豪から良質な血をこれまでより安価に導入できるというプラス面もある。
馬券の売上げが下がり、地方の競馬場が閉鎖されるなどして需要が減り、馬産地は苦しい状況に置かれている。それはTPPが云々される前からの話である。
私のいる出版界は、周りが好況に浮かれていたバブル期でも、深刻な「活字離れ」のため、「出版不況」が叫ばれていた。おかげで不況に強い体質になり、これだけ周りが「縮小だ、撤退だ」と言っているなか、なんとか踏ん張っているところが多い。
同様に、今も生き残っている生産者は、コスト面など、苦しいなかでやりくりする術(すべ)を工夫してきたところだろう。
「安い外国産馬」より「高くても良質な国産馬」に金を出す人はたくさんいるはずだ。今後の動向を見守りつつ、日本の馬産地を応援しつづけたい。
30日の金曜日に都内で大事なインタビューがあったため、介護帰省を切り上げて帰京した。
ほぼ2週間ぶりに自宅兼事務所に戻ると、浦河在住の写真家・内藤律子さんから書簡が届いていた。
写真展と、来年のカレンダーの案内だった。
来年のカレンダーとして、いつもの「サラブレッドカレンダー」(620×425ミリ)のほかに、ちいさな「とねっこカレンダー」(235×225ミリ)も製作したという。
とねっこカレンダーは、今年4月10日に34歳で亡くなったハギノカムイオーとその子供たちの写真で構成されている。
ただ、こうしてカレンダーを個人でつくりつづけるのはやはり厳しいらしく、内藤さんのカレンダーは、この2014年版が最後になるかもしれないという。
サラブレッドカレンダーは2000円、とねっこカレンダーは1000円で、両方を注文した場合は部数によって送料が変わってくる。
なお、これらは、以下のネットショップでも購入できる。
馬の雑貨屋(http://www.horse-gift.com/) ノーザンホースパーク(http://www.northern-horsepark.co.jp/shop/) ターフィー通販クラブ(http://shop.prc.jp/)内藤律子写真展「馬・馬・馬」は、富士フィルムフォトサロン仙台、東京、大阪、札幌、福岡で、10月上旬の仙台を皮切りに12月下旬まで行われる。馬産地からのメッセージとして、こちらも楽しみだ。
今週末で夏競馬に区切りがつき、来週末から中山、阪神の中央場所に競馬が戻ってくる。
その翌週にはフランスで、キズナが出走するニエル賞、オルフェーヴルが出るフォワ賞といった凱旋門賞のステップレースが行われる。
まもなく競馬のハイシーズンである。
島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆~走れ奇跡の子馬~』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。
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