2013年09月11日(水) 18:00
前回に続いて中標津競馬の続編を書く。
当日は悪天候で馬場状態が悪かった
繋駕レース風景
9頭のポニーが4コーナーから直線に向いてくる。泥を跳ね上げてどの人馬も一周してくるとひどく汚れている。これがずっと続くのか、と思ったら、いささか気の毒になってきた。
周回コースとほぼ同時に、ばんえいコースでもレースが始まった。前回も書いたように、ここでは一日で31レースを実施するので、いちいち待っていられない。2つのコースがそれぞれ“勝手に”レースを始めてしまう。毎年こんな感じである。
しかし、それを迫田栄重アナウンサーは、まったく動じることなく、2つのレースを交互に実況する。その合間に変更点について告知し、出走予定馬と騎乗者を呼び出し、今後の草競馬日程の予告までこなす。喋りっぱなしである。
この日はポニーから大型の農用馬(ばんえいに出走する)までおおよそ100頭も集まっていただろうか。
エントリー料は一律5000円で、1頭につき2レースまで出走できる。トロッターの場合は、午前中に速歩レースに出走し、午後は二輪車(ソルキー)を装着して、繋駕レースに出てくる。また、全レースに賞金が用意されており、ほとんどが1着10000円。2着7000円、3着5000円、4着以下は参加賞として一律2000円が交付される。
ただし、第30レースの「2歳重量馬」(牡570キロ、牝550キロ)と、第31レース「重量馬」(900キロ以下)は、それぞれ20000円、30000円の賞金である。また、昼休みに行われる「人力車競走」も30000円となっている。
もっとも、いくら賞金が出るとは言っても、2度出走していずれも優勝したところで計2万円。とても儲かるような話ではなく、せいぜい交通費が出るくらいのものだ。それでも馬運車に馬を積んで全道各地より会場にやってくる人たちは、要するに「草競馬が好き」なのである。好きでなければとてもこんなことはできない。今年のように雨に濡れることもあれば、落馬して負傷することだってある。馬の故障もないわけではない。
それでも、日頃から調教を積み、こうして草競馬で自分の馬と技術を披露し合い、誰が一番速いのかを競うことに意味がある。まさしくこれが競馬の原点である。
騎乗混合短距離走の熱戦風景
ポニー300mレース決勝写真
お昼休みには恒例の人力車競走がおこなわれた。6チームが参加。1チーム3人(引き手2人、騎手1人)で繋駕のソルキーを曳いて200mを走るこの競技は、できるだけ騎手の体重を軽くすることにコツがあるようで、見ているとほとんどのチームが幼児を車に乗せて出場してきた。中には、幼児どころか乳児に近いくらいの子供を座席に紐でくくりつけて登場した例もあった。
賞金がかかっていると、どのチームも張り切る。しかし、今年はあいにくの馬場状態で、泥んこになるのを覚悟しなければとてもまともには走れない。大泣きする騎手(幼児)をなだめながら必死に馬場を走ってくるのだが、見ているだけで疲れてくるようなレースであった。
午後にはトロッターたちが繋駕レースを行う。繋駕は絶滅危惧種のような競技だが、それでもまだ道東には辛うじてレースが成立するだけの愛好者がいる。繋駕は年齢層が広く、今年は親子で出場した人たちもいた。
泥んこ馬場のトロッター速歩
次々に人馬が出てきて走る。目まぐるしくレースが消化されて行き、最終レースが終わったのは午後3時前のことであった。雨はほぼ終日降り続け、気温はとうとう13度から14度辺りのまま上がらず、ひどく寒かった。
雨のせいで例年と比較すると来場者も少なく、何とも寂しい競馬となったが、1日で何から何まで見られるのがここ中標津の最大の特長である。この時期、道内を旅行する予定のある方はぜひ来年でも来場されては如何。年々、道内の草競馬は廃止、休止となるところが増えてきており、中標津もいつまで続けられるかまったく予断を許さない状況だという。ここは必見の競馬場で、存続しているうちに一度見て頂きたいと思う。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。