2013年09月14日(土) 12:00
来春、JRA初の「映像提供を行わない非滞留型発売店舗」として、「阿見場外勝馬投票券発売所」(愛称:ライトウインズ阿見)がオープンする。
「映像提供を行わない」ということは、モニターがあったとしても、出馬表やオッズなどのデータを表示するだけなのだろう。
午後から競馬場に行くと、決まってかなりの数の人とすれ違う。メインレースを現地観戦する前に帰路につくあの人たちは、競馬場を「非滞留型発売店舗」として利用しているわけだから、もともとその需要はあったと言える。かく言う私も、仕事の合間に、自宅兼事務所から近い大井競馬場の「J‐PLACE」でJRAのGIの馬券を買ってすぐ帰ったことがあるし、札幌に介護帰省しているときなどは、実家からクルマで15分の札幌競馬場を「非滞留型発売店舗」として利用している。
――どうしてPATで買わないのですか? よくそう訊かれるが、あれはすぐ残高がゼロになってしまうし、そもそも数字が変わっていくだけなんで、「賭けている」という感じがせず、ドキドキすることができない。
私のように、金銭の管理を家人に任せ(つまり、自分では通帳もキャッシュカードも持っていなくて)、現金とクレジットカードだけでモノを買っている人間(同世代の男の大多数がそうだと思う)にとって、ブラッと寄って馬券を買える「リアルの施設」は絶対に必要なのだ。
この「ライトウインズ阿見」は、木造平屋建てで、窓口は6つ(自動発売機3つ、自動発売払戻兼用機3つ)、駐車場は40台収容になるようだ。
ここは美浦トレセンからクルマで15分ほどで、道を挟んだ向かいに大型商業施設「あみプレミアム・アウトレット」がある。わりと最近、私は、美浦トレセンに行き、午前と午後の取材時間があいてしまったとき、このアウトレットで昼食をとってジーパンを買ったことがある。
家族をそこで遊ばせ、自分はラジオを聴いたり、スマホのグリーンチャンネルモバイルで実況を見たりしながら、ライトウインズとアウトレットを往復するオッサンも出てくるかもしれない。
いい場所を選んだものだ。 住宅街ではないので、この手の施設をつくるときについて回る、金と時間と人員など結構なコストがかかる近隣対策に、そう骨を折らなかったはずだ。近くにまったく人が住んでいないわけではないが、トレセンに近く、競馬に関わる仕事をしている人が多いので、理解を得られやすかっただろう。
施設の規模としても、このくらいの大きさのものなら、都市部につくるにしても、建設のためのコストも維持費も、ウインズとは比べ物にならないぐらい安く済む。
単体の主催者としては日本に次ぐ売上げを計上しているフランスや香港、それから経済成長とともに売上げを伸ばしているトルコなどには、こうした小規模の「非滞留型勝馬投票券発売所」が数多くある。日本の宝くじ売り場ほどの大きさの店で、半分は馬券、もう半分でサッカーくじを売るなどしているところもあり、それも今後の展開のヒントになりそうだ。
競馬を楽しむ新しい形として、このライトウインズ、ありだと思う。 が、既存のウインズやエクセルのような、都市部の「滞留型勝馬投票券発売所」も需要があるだろうし、もっと需要を掘り起こしてほしいとも思う。
「滞留型」となると、馬券を買うだけではなく、食事もとるし、お茶も飲むし、場合によっては風呂に入りたくなったり、眠くなることもある。 「長くそこにいて楽しめる。飽きない」というコンセプトを、競馬場以外の施設でももっと突き詰め、いろいろな形のものを提案してほしい。
かつて、売上げは、「競馬場」と「場外」に分類され、1974年に場外の売上げが競馬場内の売上げを追い越した。 その分け方が、今は切り口を変えて「現金」と「PAT」(「リアル」と「ネット」)になり、リアルの部分に「滞留型」と「非滞留型」という考え方が加わった。
「非滞留型」は、特に、私より上の、すでに退職した世代の呼び戻しや新規開拓に効果的だろう。パソコンなんて使わないし、携帯も通話だけ。だが、現金はうなるほど持っていている。けれども、これまで仕事一筋だったので、遊び方、金の遣い方は定まっていない、という世代。
競馬の「大人の遊び」としての面白さを再認識させてくれるきっかけになりそうな、ライトウインズ。第2号、第3号がどこにできるのか、楽しみに待ちたい。
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。 関連サイト:島田明宏Web事務所