2013年09月26日(木) 12:00
人を知ることよりもはるかに難しいのは自分を知ることだと言う。分かっているようで分かっていない。突如、これまでになかった顔がのぞく、それに振り回されてじたばたしている、困ったものと気がづいて振り出しに戻る、そこで知るこれまでにない自分。
深い洞察力を向けるのは、この自分なのではないか、様々な場面で思い知らされてきた。老子が言った「人を知るは智なり、自ら知るは明なり」は、生きるための知恵を示したものと読んだことがあるが、智と明を比べたら明のほうが高いレベルの能力を指していることが分かる。明は、ものが見えるということであり、読みが深いことにも通じる。だからこっちの方が難しいのだ。
自分を知ったうえで相手を知り、そうして戦えば負けることはないとも言うから、自分を知る明が、どれだけ大きいか、想像がつくと言うものだ。
GI競走の大きな舞台で、よく世代交代のシーンを見ることがある。追う側と追われる側では、追われる立場のチャンピオンの方がなにもかも知りつくされれているから苦しい。追う側はどう戦えばいいかは、とにかく打倒チャンピオンに集中できるから、気分的には優位に立っている。そこでどう戦うかだが、ここでおのれをどこまで知り尽くしているかが問題になる。スプリンターズSではスプリントGI3勝目を目指すビリーヴを破った平成15年のデュランダルを思い出す。
平坦な直線ならマイル戦ぐらいがベストだが、スプリント戦なら直線に坂があるコースの方がいいということで、事実中山の1200mは一年前にも勝っていた。そして、その戦い方、スタートが遅く気性が難しいので、ロスを承知で大外に出して追い込みに徹する、そうすればどの馬よりも鋭い切れ味を発揮できるを実践したのがスプリンターズSだった。
ベストの走りをした王者ビリーヴを、ゴール前15センチ差で交わした新星誕生はこうして実現したのだった。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。