週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

2003年08月19日(火) 11:47

 17日にドーヴィルで行われたジャックルマロワ賞は、残念な誤算と嬉しい誤算がいくつも交錯したレースとなった。

 日本馬に関する最初の誤算は、ドーヴィルの馬場だった。既にニュース等で御存知のように、今年のヨーロッパは記録的猛暑。ドーヴィルも8月に入ってから一度も雨が降らず、日中の気温も連日35度を越える暑さとなった。となると、芝コースは『パンパンの良馬場』と考えるのが自然の成り行きである。事実、似たように『高温少雨』の夏となった5年前、ドーヴィルはレコード続出の高速馬場となり、日本馬にとって絶好の舞台が整った中で2週連続G1制覇の快挙が達成されたのだ。

 ところが今年、ドーヴィルの馬場は、実際に騎乗した日本人騎手の言葉を借りれば「ぐじゃぐじゃの所もある」ほど、ソフトな状態だったのである。

 欧州では、原則的に「固い」馬場は「悪い」馬場である。コースマネージメントを任されている主催者側としては、この気象下でも人為的に「良い」馬場を作れることを示す必要があり、これでもかというほどの水が馬場に撒かれたのである。『猛暑』の概念が、行き渡るだけ行き渡り滲み通るだけ滲み通ったことが、むしろ逆に作用してしまった結果、例えば1週間前のモーリスドゲスト賞では、5年前にシーキングザパールが作ったレコードよりも、1300mで3秒も遅い馬場が出来上がったのであった。

 日本馬にとってうれしくない舞台設定となったわけだが、中でも、連日続く散水を恨めしげに眺めていたのが、テレグノシスの陣営だった。日本の草丈の短い馬場ですら、パンパンの状態を望むテレグノシスである。欧州の深い芝がこれだけ湿りけを持ってしまうと、実力の発揮はおぼつかないというのが、関係者も含めた戦前の下馬評であった。ところが、これがまた『誤算』だったのである。ゴール前、馬場の中央を堂々と抜けてきたのは、ローエングリンではなくテレグノシスだったのである。

 今季の欧州におけるマイル戦では間違いなく最高のメンバーが揃ったと言われるこのレースにおける僅差の3着は、紛れもなく大好走であり、非常に高い評価を得て然るべきパフォーマンスであった。

 勝ったシックスパーフェクションズは、イギリスとアイスランドの1000ギニーでともに道中大きな不利があって惜敗をしたものの、実質的には今季の3歳牝馬で最強のマイラーと目されていた馬である。2着のドームドライヴァーは昨年のBCマイル勝馬で、前年のこのレースの2着馬なのだ。彼らと「短首+1馬身差」の勝負をしての3着。しかも、ロイヤルアスコットのG1ウィナーや、ここまで無敗の仏オークス馬、2頭の仏2000ギニー馬、ドイツの2000ギニー馬らに、後塵を浴びせたのである。これで、レイティングの面でもトップマイラーの仲間入りを果たしたテレグノシス。次走のムーラン賞では、おそらく人気馬の一角に顔を出すことになるだろう。健闘を期待したい。

 一方、ここでは大敗したローエングリン。輸送を苦手とする彼が、3時間以上掛かるシャンティーからドーヴィルの当日輸送を経て、レース前からやや落ち着きを欠いていたように見えたことは、ぜひ付記しておくべきだろう。次走、ムーラン賞の舞台となるロンシャンは、シャンティーから1時間以内のドライヴ。

 次走、ローエングリンを軽視すると、またもや「誤算」が生じる可能性があるように思う。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

新着コラム

コラムを探す