2013年09月28日(土) 12:00
26日、プロ野球・楽天のパリーグ初制覇の瞬間をCS放送で実況しました。“胴上げ投手”に指名された田中投手、圧巻でしたね。西武の意地の反撃を断ち切った“最後の8球”は、球史に残る名場面だったと思います。
ところで、その日に楽天が優勝を決めるには、勝つだけでなく、2位のロッテが負けることが必要でした。私も、楽天の試合を中継していながら、ロッテ戦の途中経過をいつも以上に気にしていました。
当日の放送でも喋りましたが、今や携帯やスマホ、パソコンやタブレットなどで全試合の途中経過が簡単に見られる時代。ところが、現場の解説者とアナウンサーは、目の前の試合に集中しなければならず、なかなかそれをチェックできません。スタッフが情報を知らせてくれるまでに、いくらか時間がかかってしまいます。
そのため、あの試合の途中では、ほんの数分ではありましたが、ファンの方はとっくにロッテがリードされたことを知っているのに、それを知らないのは解説者とアナウンサーだけ、という状態になりました。これは何とももどかしいものです。
「放送席にロッテ戦の中継を映すモニターテレビを置いておけばいいのに」という方もいらっしゃるでしょうが、それを見て喋ることは“禁じ手”とされています。もしOKだったら、例えば競馬中継の真っ最中に、他局が放送している注目スポーツの結果をいくらでも速報できちゃいますからね。
ただ、某ラジオ局の競馬中継では、ターフビジョンに映し出される他場のレースを、本場(この場合は、局がマイクを立てて中継している競馬場)にいるアナウンサーが実況する、という“荒技”を使っています。これは、JRAが放映している映像だからできること。そのついでで言えば、パブリックビューイングの会場で、放送されているものとは違う実況をつけて見せる、というのもOKでしょう。
それはさておき、通信機器の飛躍的な進化によって、中継現場では、先に書いたような時間的ズレ=タイムラグが生じるようになりました。これは由々しき問題です。
どういう情報が、視聴者やリスナーの方々から求められているのか。スポーツ中継に携わる者は、常にそれを考えていかなければなりません。Aさんにはわかりきった話でも、Bさんにとってはありがたい情報だったり、Xさんに対してはもう古いと言われてしまうことが、Yさんには新鮮なニュースだったり、受け手の方々もさまざまです。
さらに、携帯、スマホ、パソコン、タブレットなどで即時に入手できる情報の存在が、事を複雑にしています。つまるところ、すべての方から同じようにとらえていただける情報というのはないのかもしれません。目の前の試合やレースをしっかりお伝えする。結局はそこに戻る、ということでしょうか。
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矢野吉彦
テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。