2013年10月03日(木) 12:00
とても完璧な人間ではないから、その足りないところを知恵で補うしかないと、そこまでは年令を重ねて考えが及ばないが、ではどう知恵を出すかが難しい。時代がいくら変化しても、この領域には変化はない。そこで、先人たちの残した言葉が、色褪せることなく今でも受け継がれている。生きる知恵は古典の中にありなのだ。生き残った知恵、それがある。足りないところは他の能力で補うのだが、では他の能力を借りるにはどうするか。
そこで「三国志」に出てくる孫権が語ったと伝えられる言葉が登場する。他の短所には目をつぶり長所を発揮できるようにするという「その長ずる所を貴び、その短なる所を忘る」だ。これは、リーダーの資質について述べたと伝えられているが、そうでなくても他との関係をよくするために大切な心構えではある。長所を伸ばす、人材を育成するための大切なことでもあるが、これは競走馬育成でもよく言われている。馬の場合はその血脈から資質を推し計れるが、毎日王冠でグレード制導入後、最初に父仔優勝を遂げた父サクラユタカオー、その仔トゥナンテのケースを思い出してみた。
重賞2連勝で秋初戦の毎日王冠から天皇賞秋をめざすトゥナンテにとり、このステップは重要な場面だった。2000年、外国産馬に初めて天皇賞が開放された年(限定2頭)で、権利を得るため外国産馬が全出走馬11頭中7頭も占めていた。サクラユタカオーは現役時、毎日王冠から天皇賞秋とレコードで快勝したスピード馬。父に似て500キロを超える巨躯のトゥナンテにも、この強さが求められていた。松元省一調教師は、体を絞りスタミナを強化するトレーニングを重ねレースに送り出していた。受け継いだ資質を伸ばしてやるとき、とトゥナンテを鍛えたのだ。
「その長ずる所を貴び」を実践し、そうして父仔による毎日王冠制覇の快挙が達成されたのだった。互いの長所を見つめ合うことから始めようではないか。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。