勝算を上げるための努力

2013年10月10日(木) 12:00

「勝算なきは戦うなかれ」と言うが、ならばどれくらいの勝算なら戦っていいのか。10割の勝算などあり得ないから、その判断が難しい。人によっては勝算5分でも戦いを挑んでいくこともあるだろう。「それ行け」と突っ走っていく、その心意気こそ大切と力むのだ。確かにそれも必要と言える場合もあるが、逆に許されない場合もあるのが私どもの生活である。

 そこへいくと競馬は、万が一を追い求めるところが多い。そこが面白いのだが、少しでも勝算があるようにと努力する姿がはっきり見えるのだ。平成9年の秋華賞を勝ったメジロドーベルの場合、オークス馬で力のあるのはわかっていたが、気性の強さがいれ込みになる心配があった。目標とする秋華賞の日程から逆算し、夏は自きゅう舎で調整、ステップレースには中四週になるオールカマーを選んだ。一度走れば馬は良くなると大久保洋吉調教師は見ていたのだ。さて、そのオールカマーでは、スタンドの前を通過するときの歓声で掛かり気味になってしまい先頭に立ってしまったのだ。吉田豊騎手は懸命になだめ、外回りの向正面では人馬の折り合いがついていた。行きたがる気持に逆らわず行かせたのだ。結局そのまま逃げ切って勝ったのだが、本番をめざすにはどう調整して勝算を上げるかの課題が残った。果して、坂路での調教では掛かり気味になってしまう。そこでこれまでやったことのない平地での調整に変更したのだった。本番3週間前のこと。これにより手前の替え方もスムーズになっていた。

 メジロドーベルの武器は、逞しい後駆からくり出す末脚。本番の秋華賞で先を行く桜花賞馬キョウエイマーチを交わしに行く京都内回りの短い直線で、じっくり手前を替えてから外に出して差すレースで、2馬身半の決定的な差をつけて世代の頂点に立っていた。

 勝算を上げるための努力、それを競うのも競馬なのだといつも思っている。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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