週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

2003年08月26日(火) 16:28

 昨年のヨーロッパ年度代表馬ロックオヴジブラルタルを共同所有し、我が世の春を謳歌したはずのアレックス・ファーガソンとジョン・マグナーが、ロックオヴジブラルタルの種牡馬としての権利を巡って、深刻な対立状態にあることが発覚した。

 アレックス・ファーガソンは言わずと知れたマンチェスター・ユナイテッドの監督で、ジョン・マグナーと言えば欧州最大の競走馬生産組織クールモアのボスである。両者とも欧州スポーツ界では知らぬ者のいない超ビッグネームだけに、数あるタブロイド紙の日曜版が8月24日(日曜日)に一斉に書き立てて以来、スキャンダル好きの庶民たちにとって格好の餌食となっている。

 ロックオヴジブラルタルは、元々はクールモアが単独で所有(名義はマグナー氏の夫人であるスーザン・マグナー名義)していたところ、ロックが2歳の6月を迎えた時点で、共通の人に紹介されたアレックス・ファーガソンに権利の一部を譲渡。登録上の馬主はスーザン・マグナーとアレックス・ファーガソンの2人となり、服色はファーガソンのものを使用して現役生活を送った馬だ。

 様々な憶測記事が乱れ飛ぶ中、2人の対立の火種について最大公約数的にまとめるならば、現役時代だけの権利ではなく引退してからの種牡馬としての権利も取得したつもりになっていたアレックス・ファーガソンに対し、ジョン・マグナーは現役時代のみの権利を譲ったのだと主張。ファーガソンに種牡馬ロックオヴジブラルタルの所有権はないと言明しているのである。

 現役時代も多額の賞金を収得した「ザロック」だが、種牡馬としての収入は桁違い。初年度からシャトルとして繋養された彼からは、年間で1200万ポンド、日本円にして20億円以上の水揚げがあるのだから、両者とも黙って引き下がれるわけにはいかないのである。

 報じられているところによると、情勢はファーガソンに不利。と言うのも、ファーガソンが根拠としているのは、口頭による契約なのだ。「種牡馬としての権利も譲るとマグナーは確約した」という、いわば口約束を「マグナーが反故にした」と、ファーガソンは怒っているのである。

 一方のマグナーは、ロックが引退すると早速、ファーガソン抜きでロックオヴジブラルタルのシンジケートを結成。こちらの方はすっかり法的手続きも済んでいるから、正面からぶつかれば、ファーガソンには勝ち目のなさそうな喧嘩である。

 だが、心情的にはファーガソンの言うことももっともなのだ。ファーガソンに一言も声を掛けずにロックのシンジケートを組み、しかも電光石火でこれを書類にして所有権の手続きを行うというのは、確かに信義にもとる行為だ。しかも、当時この件でファーガソンがマグナーやクールモアに問い合わせをしたところ、「けんもほろろ」の応対をされたというのだ。

 納得の出来ないファーガソンは、現在弁護士を立てて解決への道筋を探っているというが、果たして結末はどうなるのか。

 この2人、スポーツ界の超ビッグネーム同士であるだけでなく、マグナーはファーガソンが監督を務めるマンチェスター・ユナイテッドの大株主という間柄でもあるのだ。いずれにしても、しばらくはヨーロッパのスキャンダル雀たちが、ピータクパーチクとさえずることになりそうである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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