今年一年の市場を振り返って

2013年10月16日(水) 18:00

 前回の内容と一部重複するが、改めてここで今年の日高軽種馬農協が主催した全市場について振り返っておきたい。5月の2歳トレーニングセール(札幌競馬場)に始まり、7月のセレクションセール、8月のサマーセール、10月のオータムセールと、全4市場を開催してきたが、全体的に売り上げが好調に推移し、数字を伸ばした。

好調だった今年のオータムセール会場の風景

好調だった今年のオータムセール会場の風景

 この4市場総計では、名簿に記載された2571頭(前年比-112頭)のうち、2344頭(-95頭)が上場され、1303頭が落札された。売却率は55.59%と、前年を4.05%上回ったことになる。トレーニングセールこそ10%近い落ち込みとなったものの、セレクション(2.7%増)、サマー(7.13%増)、そしてオータム(4.3%増)と1歳市場が健闘した結果、トータルではこの数字の伸びとなった。

 売り上げは4市場で合計63億3445万500円(税込)となり、全市場の落札馬平均額は486万1436円。売り上げはオータム当歳を除く全市場で増加し、前年よりも4億8939万4500円も増えた。また、平均価格もトレーニングセール(-15万6757円)、セレクション(-8703円)、サマー(-19万1474円)と、ここまでは前年をわずかに割る数字で推移していたが、オータムセールで52万9542円(頭数は少ないものの当歳は333万7500円増)の伸びを記録したことから、サマーセールまでのマイナス分をカバーし、逆に21万1431円のプラスとなった。

 必ずしもこれで近年続いていた市場落札価格の下落傾向に歯止めがかかったとは思わないが、オータムセール終了後の会見の場で日高軽種馬農協・木村貢組合長は「株価上昇やJRA、各馬主会などのご協力もあり、ある程度評価できる数字が残せました」と安堵の表情で語った。

オータムセールの好結果を分析する木村貢組合長

オータムセールの好結果を分析する木村貢組合長

 木村組合長によれば「日程が短縮できた(サマー、オータム)ことで、市場において希望の馬を競り合う雰囲気が生まれ、それが結果的に価格上昇に繋がった」とのこと。「今年はサマーセールが、昨年と比較すると上場頭数の減少にもかかわらず落札頭数が逆に増えたことで、購買者の間に品薄感が出てきた」ことがオータムセールの好結果となったと分析していた。

 また、従来は「売れ残りセール」という印象が強かったオータムセールでも、上場馬によっては想定以上の高額まで上昇する例があり、木村組合長は「自分の生産馬の成長度を見極めて、その馬に合った時期の市場を選択して上場させる方向に進むと良いですね」とも付け加えた。

 今でも、オータムセールは実質的に売れ残り馬が多く上場される市場であることに変わりはないが、1歳馬は夏を過ぎて秋になると一段と実が入ってくるのが普通で、馬によってはその分の成長が大きく見込まれる。そのことから、無理に売り急ぐことはないのでは、という見解である。

 果たして、そこまで我慢できるかどうか。できるだけ生産馬は早い時期に販売し、さっさと移動させてしまいたいのが生産者の本音なので、奥手の馬を春から夏までの時期をじっと耐えて待ち、オータムセールに勝負をかけて上場させるというような戦略に頭を切り替えられるか否か、である。しかし、木村組合長は、個人的な意見と前置きしながらも「その馬に最も合った時期の市場を、販売者と主催者が協議しながら選択させるのが望ましい」という。

昨年のサマーセール出身馬フクノドリーム

オータムセール終了の翌日にエーデルワイス賞を制した

昨年のサマーセール出身馬フクノドリーム

 言い換えれば、何でもかんでもまずセレクションセールに申し込み、それがだめならサマーに向かう、そこで売れなければオータムにまた上場させる、というようなことではいけないと解釈できる。しかし1歳市場の場合、落札平均価格がセレクションからサマー、オータムと徐々に下降して行くのが普通なので、生産者はできるだけ早期に勝負をかけたい、と考える。売り急がなければ価格がどんどん下がってしまうという焦りから、とりわけ牧場の主力生産馬はセレクション上場を望む。このあたりの調整をどうつけて行くかが来年以降の課題であろう。

 個別の取引に関しては触れないが、一般的に市場取引馬が増えれば、それだけ活躍馬が出てくる可能性も高くなる。今年は2歳戦において市場取引馬が好調な成績を挙げており、ちょうどオータムセール終了の翌日、門別競馬場で行われた「エーデルワイス賞」(2歳牝JpnIII)では、昨年のサマーセールでJRAに600万円で落札されたブリーズアップセール出身馬フクノドリーム(父ヨハネスブルグ、母キャニオンリリー、牝栗毛、浦河町・谷川牧場生産)が圧勝した。これでJRA育成馬として購買されブリーズアップセールを経てデビューした2歳馬はクリスマス(函館2歳ステークス)に続いて2頭目の重賞勝ち馬となった。

 こうしたひとつひとつの出身馬の活躍が、市場の価値を高めて行く。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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