2013年10月17日(木) 12:00
功名など考えず、感動して動く人生であったら、これ以上のことはない。人生意気に感ず、これだ。中国は唐の時代の詩から選び集めた「唐詩選」、昔からその一部でもいいから読んでおいた方がいいと教えられてきたが、その最初の詩の末尾にあった句、それが、「人生意気に感ず、功名誰かまた論ぜん」であった。これはよく覚えている。
「人生において、自分の才能を認めてくれた人の意気に感じて、全身を捧げることがある。そういう感動が大切なので、その行為によって功名を求めたり論じたりはしないものだ」という意味、若い心は揺さぶられた。「人生意気に感ず」から、感動して動く人生に憧れるようになり、競馬放送の中でもそれを意識してきた。どう人の心は動かされたか、それを知る前提に、まず自分がどう感動したかが大切、知りたいことは山ほどあるのだ。
菊花賞で言えば、これは沢山ある。3000mのこの舞台に立つこと自体、それぞれの関係者にとっては感動ものだし、三冠レースの最終章という捉え方もできる。特に、その一年を通して戦い続けてきたものが、三度ここで相まみえるとなれば、戦う前から胸は高鳴る。幾多のシーンの中で咄嗟に思い出せたのがセイウンスカイだった。平成10年、3000mを絶妙のペース配分で逃げ切ったのだが、そのタイム3分3秒2は当時の世界レコードでもあった。この年、皐月賞は、初めて手綱を取った横山典弘騎手がいきり立つセイウンスカイを懸命になだめて2番手、三角から先頭に立って逃げ込み、キングヘイロー、スペシャルウィークの順に破り、ダービーはキングヘイローの逃げを4角で交わしたもののスペシャルウィークの差し脚に屈し、そして秋。急、緩、急で後続を揺さぶり、38年ぶりの菊花賞逃げ切りを演じたのだった。この馬でクラシック初制覇を皐月賞で達成した横山典弘騎手は、騎乗することに意気を感じただろうし、そのプレイに彼の心を読み取れた菊花賞だった。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。