一意専心

2013年10月24日(木) 12:00

 他に心を向けず、ひたすらひとつのことに集中するのを、一意専心と言うが、自分にそんな瞬間があっただろうか。同様の意味で一念不動という言葉もあるが、長い間ラジオで禅宗提供の番組を続けてきて、そこで覚えたのが只管打坐(しかんたざ)という言葉。ただひたすら坐禅に徹するという意味だが、頭で理解することは出来ていても、身についているかを自問するばかりなのだ。もうひとつ番組から恩恵を受けた心構えに、あるがままという心の持ち方がある。ただひたすら、あるがままを絶えず自分に言い聞かせることで、なにか良い風が吹いて来るように思えるから、これは有難いと思ってきた。

 当然、競馬の中にそれを模索することもあった。こちらには、人馬一体という言葉があるが、それに関連して馬乗りの極意を表したものを教えてもらったことがあった。いわゆる口伝なのだが、騎手の技を知るのに役立つのだ。「世の中の人の面の如くにて、似て似ぬものは馬の口向き」だから、一頭の馬を乗りこなすのは大変なことで。「鞍、あぶみ、手綱の三つが一致して、取り合い良きを上手とぞ言う」のだそうだ。

 では、ここに到達するにはどんな心構えが大切かとなるのだが、ここに「一意専心」が登場するのではないか。人馬一体で圧倒的強さを誇った馬と言えば、天皇賞・秋なら2000年のテイエムオペラオーがいる。二十世紀最後のこの年、テイエムオペラオーは8戦全勝、GI5勝と無敵ぶりを発揮した。春の天皇賞を勝ったとき和田竜二騎手は、スタンドに向かい「負けないオペラオーとしてこの一年をすごす」と宣言し、秋も制覇すると「あと2戦全部取ります」と述べていた。秋の王道、天皇賞、ジャパンC、有馬記念と勝ち進むこの人馬の戦いぶりは、ただひたすらレースに集中する「一意専心」を見る思いがしたもので、これこそ王者の姿と言っていいものだった。揺るぎない強さにまた触れたい。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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