2013年11月07日(木) 12:00
人生は将棋と同じで読みの深い者が勝つと、升田幸三は語った。そうだろうと思う。もっと激しい言葉もある。イギリスの首相だったチャーチルは、勝利を完全に手中に収めるまで剣を棄ててはならぬと。これは凄い。この勝利に対する執念、競馬の名勝負の中に見ることが多い。それが競馬の魅力のひとつとも言えるのだが、一度でもそういうシーンに遭遇できた人は幸せだ。勝負だから、なにがなんでもという気合いも必要だが、競馬は読みの深さの方に奥行を感じるのではないか。
菊花賞でミホノブルボンの三冠を阻んだライスシャワー、その手綱を取った的場均騎手の、その時の内に秘めたものを後日語ってもらったことがあったが、その緻密な作戦は、正に彼の真骨頂を見る思いだった。
長距離戦ほど騎手の比重は大きいと言われるが、勝負師の見せる戦い方、そこをじっくり鑑賞できるレースであればと願う。エリザベス女王杯もそうしたもののひとつだ。距離2200m、京都の外回りコース、どう戦うかの読みが生きる余地が十分ある。かつて的場騎手はエリモシックで逆転勝利を飾ったことがあった。オークスで2番人気に支持されたほどの素質馬が、後方一気の脚質でなかなか陽の目を見ることがなかった。古馬になった夏の札幌記念でエアグルーヴの2着に追い込み、秋のタイトルに執念を燃やした。1800mの府中牝馬Sでは、その先を見据えたように直線だけの競馬で4着し、本番に向った。相手は前年の覇者ダンスパートナー。この大本命を前に見て、その一瞬の動きを逃さず追い込みを決めたのだった。読みの深い者が勝つ、その執念を見せてくれた。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。