2013年11月16日(土) 12:00 31
エリザベス女王杯でのメイショウマンボの勝ちっぷりは実に鮮やかだった。
GIというのは「パンチ比べ」になりがちで、多少成績にムラがあっても、マンボのように「勝つときは強烈」という馬が、デニムアンドルビーのような「堅実派」を負かしてしまうものだ。
5着だったそのデニムも、2着のラキシスも4着のトーセンアルニカも3歳馬だ。
レース前、今年の3歳牝馬のレベルを疑問視する向きがあり、それが単勝人気にも反映したのか、最終的に4歳のヴィルシーナが1番人気、マンボは2番人気に落ちついた。
皮肉を言っているわけではなく、実は私は、どうして3歳勢が低レベルだと言われるのか、その論拠がわからなかった。わかったのはエリ女直前で、スポーツ紙に「3歳牝馬は古馬混合重賞を1勝もしていない」という記述を見つけたときだった。感想は「ほう……」だけだった。
今年と逆に、ウオッカがダービーを勝ち、ダイワスカーレットが牝馬二冠を制し、アストンマーチャンがスプリンターズステークスを勝った2007年は、3歳牝馬のレベルが非常に高いと言われていた。
その年の秋、私は3歳牝馬の同世代牡馬との対決データや、対古馬とのデータなどをもとに「今年の3歳牝馬は本当に強いのか」といった原稿を「優駿」に書いた。全体の数字を見ると、同期の牡馬との対決では、ほかの世代同様に負け越していた。が、そのとき調べた9月末までのデータで、のべ12頭の3歳牝馬が重賞とオープン特別に出走し、うち3頭が勝つなど、トップクラスの馬は確かに強かった。ほかには世代の強さを実証するデータがあまりなく、最終的には、トップ中のトップのウオッカやスカーレットらの強烈なパフォーマンスによる「印象点」が高かった、という結論に至った。
「印象点」という意味では、先週のエリ女で一気に形勢が逆転し、「3歳牝馬は強い」というイメージを持つ人が増えたのではないか。
かく言う私も、「世代のレベル」の評価は「印象点」に大きく左右されており、トレヴが凱旋門賞で見せた走りに圧倒されて以来、「今年の3歳牝馬はとつてもなく強い」というイメージを持ちつづけている。あの馬だけではなく、「3歳牝馬」というだけで強そうに思えてしまうほど、「トレヴショック」が大きかった。
今年の3歳牝馬全体のレベルが見えてくるのはもう少し先だろうが、その世代が強いか弱いかという議論は、先述したトップクラスのその後の活躍に対する印象度ということになるのだが、確かに成立する。
それに関連するのが、サラブレッドならではの「共時性」だと私は考えている。
ウオッカやスカーレットが活躍したころ、アメリカでは、ゼニヤッタとレイチェルアレクサンドラという女傑がとてつもないパフォーマンスを発揮するなど、日本で起きたのと同じような事象が欧米でも見られる、ということが多々ある。
ソメイヨシノは、一本が病気になると、ほかの木も一斉に発病することがよくある。これはソメイヨシノが、挿し木によってしか増やすことのできない、いわばクローンで、同じ遺伝子、性質を有しているからだろう。起源はおそらく一本かごく少数の原種だと思われる……というあたり、祖先がすべて17世紀末から18世紀にかけてのダーレーアラビアン、バイアリーターク、ゴドルフィンアラビアンにたどり着くサラブレッドに似ている。
クローンではないが、濃い遺伝情報を共有する者同士だから、前述したように、遠く離れたところでも、似たようなトレンドが見られることがあるのではないか。
メイショウマンボとジェンティルドンナは、有馬記念に向かうのだろうか。
すでにキズナとオルフェーヴルは、陣営が参戦を表明しているので、3歳王者と古馬王者の激突は約束されている。
そこに3歳女王と古馬女王が加われば、間違いなく史上最強メンバーによるグランプリとなる。順調ならゴールドシップも出てくるだろうから、ぜひとも「五強対決」が実現してほしい。
未だ3頭揃っての直接対決がなされていない「OGG三強」に、3歳の牡牝のチャンピオンが加わった、この五強。
5頭すべてが関西馬だ。菊花賞と天皇賞・秋をそれぞれ圧勝したエピファネイアとジャスタウェイも関西馬だ。世界の共時性について話しているときに関東も関西もないのかもしれないが、やはりちょっと寂しい。
関東でも「共時性」が発生して、休養中のフェノーメノやロゴタイプを上回るほどの大物が現れてくれると、もっと盛り上がるのだが、タラレバの話は、このぐらいにしておきたい。
数日前、急に風が冷たくなったと思ったら、東京も一気に冬めいてきた。
年末まで毎週、GIが楽しめる。
吐く息の白い競馬場というのもいいものだ。
島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆~走れ奇跡の子馬~』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。
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