2013年11月21日(木) 12:00
◆韋駄天・サクラシンゲキを思う
幾たびか辛酸を経て、志ははじめて固まるもの。その志を貫くためには。玉となって砕けることを本懐とすべき。なかなか勇ましい言葉だが、これが西郷隆盛の述べたものと聞けば頷ける。志をまげるな、心が折れそうになったときにはこう叫んで自分を鼓舞したい。また、こういうのもある。人生全て七転八倒だ。だが、絶望さえしなければ必ず成就すると。これは中国の革命の父、孫文の言葉だが、強い信念があれば、ここまで強い意志を出すことが出来る。
さて、我が身だが、どれだけの辛酸を経て、どれだけの志を貫いてきたのか。少なくとも、玉となって砕けたことはなかった。また、人生全て七転八倒でもなかったから、絶望まで心が動いたこともなかった。でも、大方はそんなものではないか。だから、他のことに志を見つけ、その成就する姿に我が身を置き換えてみたくなるのだ。
初期のジャパンカップがそうだった。サクラシンゲキのあの韋駄天ぶり。始まりはその玉となって砕けた逃げに心意気を見た。執拗に追うカナダ勢、なにがなんでも先頭を死守する小島太騎手。アメリカの三機は中団から後方に悠然と構えている。最初に動いたのは、この高速ペースを3番手につけていたフロストキングだった。500キロを越す芦毛の4歳馬(旧表記)だ。あと600mを切ると動き出す。直線に向くとさすがのサクラシンゲキも苦しくなり、外国勢が一気に迫ってくる。モンテプリンス、ホウヨウボーイの日本の天皇賞組もなんとかこの一群に加わろうとするが、直線の坂を上る頃には脚色が怪しくなる。怒とうの如く押し寄せてきたのは、メアジードーツ。このアメリカの6歳牝馬はフロストキングをあっという間に交わしていた。19歳のキャッシュ・アスムッセンのスマートなムチ使い、この第一回のジャパンカップで受けた衝撃から始まった日本の競馬の世界へという志は、まだ完全に成就してはいないが、よくぞここまでという思いではある。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。