2013年11月23日(土) 12:00 9
◆巡り合わせを感じた“ミストラル”という言葉
先週は、海外200競馬場踏破を達成したマルセイユ・ポンドヴィヴォーが川崎競馬場みたいで、不思議な巡り合わせを感じた、ということを書きました。今週は、その旅でもうひとつ、特別な感慨を覚える巡り合わせがあった、という話を書かせていただきます。
今回、羽田からパリ経由でマルセイユに着いたのが10日の朝。その日は市内のボレリー競馬場でレースを観戦、翌11日は、マルセイユから国鉄で東へ1時間ちょっとのところにあるニームという町の競馬場を訪ねました。
この2日間、現地では暴風が吹き荒れていました。とくに10日は、風に向かって歩けなくなることもたびたびあり、「競馬をやって大丈夫なのか」と心配になったほどです(日本なら中止になっていたかもしれません)。
それでふと思い出したのが“ミストラル”という言葉。さっそくネットで確かめてみると、「フランスのローヌ川沿いに地中海に向かって吹き下ろす、冷たく乾燥した強い北風。冬から春にかけて生じる」(kotobank.jp、デジタル大辞泉の解説)とありました。ローヌ川は、スイスに端を発しフランスを北から南へ縦断、リヨンを通り、ニームとマルセイユの間を抜けて地中海に至る大河のこと。私が見舞われた暴風は、まさにこの“ミストラル”だったのです。
なぜこの言葉を知っていたのか。それは、往年の花形特急列車、“ル・ミストラル”を知っていたから。この列車は、フランス版新幹線のTGVができる前に、パリとニースの間をリヨン、マルセイユ経由で結んでいました。改めて調べてみると、列車番号はパリ発が1番、ニース発が2番で、長らく1等車しか連結されていなかった、フランス国鉄が誇る超優等列車だったとのことです。もちろん、その列車名は、沿線名物の“ミストラル”にちなんで命名されました。
実は、私が小学校6年生の時、「どこでもいいから海外へ行ったつもりになって作文を書きなさい」という宿題を出されたことがありました。もともとが鉄道好きでしたから、テーマを鉄道旅行にしたのは当然の成り行き。近所の図書館に通い、海外の時刻表を解説した本を参考に「ヨーロッパ(仮想)鉄道旅行記」を書き上げました。そこで出会ったのが“ル・ミストラル”という列車名。ヨーロッパ随一の豪華列車とあってインパクト抜群、強く印象に残ったわけです。
当時(今から40年以上前)の自分にとって、海外旅行は夢のまた夢。まして海外200競馬場踏破というような暴挙(?)を達成してしまうなんて、想像できるはずがありません。でも、あの小学校6年生の時の作文は、私の海外旅行の原点と言ってもいいでしょう。その時初めて知った1つの言葉に、今回、巡り会うことができました。
「“ミストラル”が私の200競馬場踏破を祝ってくれた」。勝手にそう思い込んでいるところです。
矢野吉彦
テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。