ロードカナロア、社台スタリオンへ

2013年12月18日(水) 18:00 33


◆生産地では大きな関心事になっていたロードカナロアの繋養先

 今思い出してもまさしく圧倒的としか表現できない強さであった。去る12月8日の香港・沙田競馬場で行われた「香港スプリント」(G1)でのロードカナロアである。

 1200mながら直線だけで後続馬を軽く5馬身も引き離し、悠々と1着でゴールした。着差以上に力の違いをまざまざと見せつけるような派手なパフォーマンスであった。

 これで19戦13勝。2着5回。3着は2012年の高松宮記念のみ。ほぼ完璧な成績を挙げ、十二分に余韻を残しながらの「引退」である。まだまだ走れるのに、という印象を強烈に残したまま、きれいに引き際を飾ることができた。

 もともと香港スプリントが引退レースになることは決まっていたが、問題はその後のこと。「どこで種牡馬になるのか?」が生産地では大きな関心事になっていた。

 先ごろ、来春の種牡馬ラインナップ29頭の顔ぶれが社台スタリオンから発表されたばかりである。しかし、当初その中にはカナロアの名前がなく、「社台スタリオン以外ならばいったいどこで繋養されることになるのか?」といろいろな憶測を呼んでいた。

 ダーレースタリオン?ブリーダーズスタリオン?JBBA?アロースタッド?さまざまな説が入り乱れていたが、水面下で社台スタリオン入りのプランが着々と進行していたということであろう。考えてみれば、種牡馬として成功させたいと願うのならば現時点ではその選択肢が最もベストである。種付け料などの配合条件にもよるとはいえ、繋養先を誤ると、交配頭数が集まらず苦戦を強いられる可能性もあるからだ。

 ますます一極集中が顕著になるとはいえ、当分この流れは変えられまい。

 ロードカナロアの生まれ故郷は新ひだか町三石川上の(有)ケイアイファームである。

ケイアイファーム

ケイアイファームの風景

 この馬が京阪杯を勝った2011年の暮れに初めて取材にお邪魔した。それまで牧場の前を通ることはあっても、中に入ったことがなかったので目にするものすべてが新鮮であった。

 ここは生産から育成までを一貫体制で行う中規模牧場である。数を増やすことよりも、質を維持し、個々のレベルアップを図る方針に貫かれている。例えば繁殖牝馬。積極的に海外市場に出かけ、できるだけ良質の牝馬を導入してきたとその時伺ったのを覚えている。

 育成もまた、敢えて言うならば「少数精鋭主義」である。ロードホースクラブを中心に、自家生産馬と他の牧場から購入した若干数の1歳馬のみで構成されており、みだりに頭数を増やさぬようにしている。

 1頭ずつ隅々まで手をかける基本に忠実な育成方法である。しかも、ここは、屋根付き坂路も屋内馬場もなく、育成馬は全天候型坂路で年中調教される。この時期は、融雪剤とハローがけを併用して、常にコースを万全の状態に維持するべく注意が払われている。

 同ファームの中村智幸ゼネラル・マネージャーは、「施設の整備そのものは二の次になってしまいます。それよりも良い繁殖牝馬ですね。そりゃもちろんここに(と坂路を指さして)屋根がかかっていれば良いとは思いますよ。でもその前に私は良い馬が欲しいですね」と言い切る。牧場によってそれぞれ経営方針が異なるし、投資の優先順位もまた違ってくるが、ケイアイファームの場合は明らかに「馬優先主義」である。

ケイアイファーム

ケイアイファームでの調教風景

 またロードホースクラブの本拠地ながら、この牧場の施設は概して地味だ。例えば事務所。正面に見える厩舎の一角に必要最低限のスペースが設けられているのみ。実質本位そのもので、余分なもの、華美なものには無駄にお金をかけない姿勢が徹底している。こうした積み重ねのひとつの成果がロードカナロアなのだろうと思う。

 年明けの1月13日(月)、昼休みに京都競馬場で同馬の引退式が行われることになっている。私事ながら前日、シンザン記念が開催されるので京都出張を予定している。ちょうど良いタイミングで引退式を見られそうだ。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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