足る事を知って及ばぬ事を思うな

2014年01月30日(木) 12:00


◆ヴェルデグリーンのAJCC勝利に思う

 足る事を知って及ばぬ事を思うな、これはなかなか奥行きのある言葉だ。楠公こと武将の楠木正成の家訓として伝えられているのだが、これに類する言葉は、時代を超えて生き続けている。そして、徒然草の吉田兼好のこれも面白い。初心の人、二つの矢を持つことなかれ、後の矢を頼みて、はじめの矢に等閑(なおざり)の心ありと。物事に対処する際の心構えが見えてくる。

 競馬で言えば、これしかないという強い決意を持ち、その事に集中して戦うことに通じる。その戦い方が、あるコースでなら大いに生きてくるということが競馬にはあり、それが特に顕著なのが中山だ。四大場の中で最もトリッキーなコースだからこそ、無類の強さを発揮する馬が、これまでもいた。最近ではマツリダゴッホ、ネヴァブションがそうだが、切れよりもパワー、スタミナの生きる競馬が合うという共通点がある。

 その時どきにこうしたコース巧者が登場する仕組になっているように見えるのだが、アメリカJCCを勝ったヴェルデグリーンも、そうした馬の仲間入りをしたと言ってもいいのではないか。爪の不安が解消した去年、大躍進したのだが、オールカマーが9番人気で、その低評価をあざ笑うような大外をまくり上げた正攻法での勝利。この2200mの戦い方をさらに進化させたアメリカJCCだった。

 中山2200mの重賞2勝は、この先のヴェルデグリーンの動向に注目を集めることになった。ただ、足る事を知って及ばぬ事を思うなのこころがどう左右するか、そこは油断なく見ねばならない。その点、かつて根岸Sで初めてダートの1400mを勝ったサウスヴィグラスは、その多くを1200mのスプリント戦に集中させ、そこからはみ出すことはしなかった。強いのはダート1200mという事実を大切に、充実期に入って初めて1400mの根岸Sを勝ち、交流重賞の黒船賞、かきつばた記念の勝利も1400mだった。だが、ダート短距離最強の存在はゆるがなかった。二つの矢は持たなかったのだ。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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