2014年02月21日(金) 18:00
◆距離短縮の「世界の流れ」に一言
12月のステイヤーズS(中山3600m)と双璧をなす数少ない長距離重賞。ここで高いレベルを示すなら、春の天皇賞3200mに続く路線である。
長距離戦の評価はだんだん低くなりつつある。春の天皇賞とあまり間がない時期に招待のドバイワールドCを中心とするビッグイベントがあるから、目標はそちらに移り、関連して春の天皇賞の3200mはそろそろ距離を…という声があったりする。
長距離戦の必要性は簡単にどうこういえるものではないが、興行面やスポーツ性というより、生産に伴うビジネスが距離短縮の流れの重要な要素になっているところはある。
サラブレッドはもともと長距離に対する適性は考えられているより乏しい身体的特徴は否定できないが、しだいしだいに短い距離で能力の優劣を決定しようという流れは、はたして本当に望ましいことなのかが難しい。品種改良によって生まれた典型的な雑種が出発のサラブレッドは、その種の存続、生かされ方も人間の事情しだいになる。
世界の流れうんぬんは説得力があるようでいて、降着制度の向かった方向と同じで、著しく正当性には欠ける。多数派は多くの場合、力で勝っても正義ではないことがある。
日本の生産でいえば、凱旋門賞や、キングジョージ(略)に何十年も挑戦しながら、きまったようにゴール前で力尽きる馬がいなくなってから、そのとき初めて、距離短縮指向に説得力が加わるだろうと思える。サラブレッドの選手権距離が「1600-2400m」とするなら、1200mの競走にも、3200mの競走にも選手権距離を成立させるために必要な要素が秘められていることはいうまでもない。
日本でもどんどん2歳戦が早まっているのは、おそらくこれは、生産の回転を早めるための経済の観点以外に大きな理由はない。人間と馬は成長曲線も寿命もまったく異なるが、どういう換算視点からみても、2歳の早い時期は幼稚園児か小学生ではないかとされる。だからアメリカは若駒に、筋肉増強剤使用をやめない。競走の距離短縮への傾斜には、どうも生産の回転を早めるのと同じような理由が見え隠れするところが、ファンの側からすると釈然としない部分である。実情や必要性は、それは理解したいが、しかしそれでは…という気がしてしまうのである。
キズナ、ゴールドシップ、フェノーメノなどは天皇賞(春)3200mに出走する予定がある。そこに天皇賞(春)があるから出走するわけではない。底力、地力強化に必要と考えるからである。望ましく思える。
◆ハーツクライ産駒を中心に
ダイヤモンドSは、もちろん参加するが、かなり手薄なメンバーになってしまった。東京の3400mは、スローになっても最後はスタミナ能力が問われることになっているが、前回の3000mの万葉Sを、「1000m通過1分04秒5、2000m通過2分08秒3…」で先導したラブラドライトが再びスローで行く形か。横山典騎手のファイアーは速い脚がないだけに本当は行きたいが、今週は動いても途中からだろう。
ハーツクライが本当に長距離向きの産駒を多く送るのか、まだわからない点はあるが、アドマイヤバラードは、菊花賞3000mのレコード3分02秒7のレコード樹立に大きく貢献したアドマイヤメインの下。2200m以上で全4勝を記録し、前回は東京の2400mを渋い内容で勝っている。楽に追走できそうな流れで、状態の良さに53キロの軽ハンデなら好勝負だろう。
ハーツクライというと、土曜東京9Rのレッドセシリアは、父がハーツクライ。母サセッティの祖母がハーツクライの3代母と同じマイバッパーズ(父バッパーズ)。したがって牝馬マイバッパーズの「4×3」という意図的なクロスで生産されている。
さらに牝馬マイバッパーズには、ベルモントSなどの勝ち馬ブルーラークスパー(アメリカの伝統のドミノ系)の「4×3」という古典的な近親配合が重なる。
レッドセシリアは明らかなマイラーに出ているが、小柄な牝馬ながら侮りがたい不思議な能力を示してくれるかもしれない。
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柏木集保
1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。