2003年10月27日(月) 18:11
英国で今、カリズマティックな人気を誇っている現役の競走馬がいる。ダービー馬クリスキン?。もう引退したし、仮に現役だったとしても知名度は低い。チェルトナムゴールドC・2連覇のベストメイト?。この馬も大変人気があるが、競馬に興味が無い人でも知っているというほどではない。
競馬発祥の地で今、競馬ファンであるかないかに関わらず、お年寄りから子供までその名を知られている競走馬と言えば、10歳のセン馬パーシアンパンチである。10月18日、ニューマーケットで行われた距離16fのG3ジョッキークラブSで、4世代も若いセントレジャー優勝馬ミレナリーを斥けて優勝した時には、ウィナーズサークルに凱旋してきた彼を迎える観衆の拍手が5分以上鳴りやまなかったほどであった。3歳の5月にデビュー、4歳5月にサンダウンで行われた16f78yのG3ヘンリー2世Sを制して以来,こつこつと積み上げてきた重賞勝鞍がこれで13個目となり、ブリガディアジェラード、アードロス、アカテナンゴと並ぶ、パターン制導入以来の重賞最多勝利タイ記録を樹立したのである。
この日のニューマーケットでは、10fのG1チャンピオンSや、2歳王者決定戦とも言うべきG1デューハーストSも行われていたのだが、翌日のマスコミ各社がトップで扱ったのは、いずれもパーシアンパンチのG3制覇に関するものであった。
以前にも書いたことだが、競走体系の中に長距離路線を確立する大きな利点の1つがここにある。ステイヤーたちは往々にして競走寿命が長い。種牡馬として生産地では不人気という側面もあるが、常に猛スピードで走るわけではないので、脚元をはじめとした馬体の傷みと消耗が少なく、長く現役を続けていれば、ファンにとっては馴染みの存在となる。そんな中から、時として若者に互して頑張る古参兵が出現すると、ファンの声援も自然と大きくなるものである。
パーシアンパンチは1歳秋、タタソールズ・オクトーバーセールで、現在も彼を管理するデヴィッド・エルスワーズ師が14,000ギニー(現在のレートでおよそ280万円)で発掘した馬だ。その馬が、先日のジョッキークラブSの勝利によって、生涯獲得賞金額が100万ポンド(約1億9千万円)を突破するほどの大出世を見せたのである。残念ながらこれまで、パーシアンパンチにG1制覇の実績はない。惜しい場面ならいくらでもあった。例えば、長距離界の最高峰であるロイヤルアスコットのG1ゴールドCには、4歳時から7年連続で参戦し、8歳時の01年と10歳時の今年の2度、2着となっている。地球を半周して2度、オーストラリアのメルボルンCにも挑戦しており、2度とも惜しい2着だった。
エルスワーズ師は既に、来季もパーシアンパンチが現役に留まることを表明している。最大の目標は勿論、悲願のアスコット・ゴールドC制覇だ。11歳でゴールドC?。既にミラクルホースと呼ばれ、伝説の領域に到達しようとしている馬が、そんな空前絶後の快挙を達成したら、いったいどんな事になるのか。
少なくとも,今からはっきりしている事は、英国の長距離路線は来年も盛り上がり続けるという事である。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。