2014年04月17日(木) 12:00
◆思い出すノーリーズンの「無欲の勝利」
勝つから強いのではなく、強いから勝つのだ、驚異の17頭ごぼう抜きのハープスターを見ているとこのことばが輝いてくる。勝てないなら何が足りないかを追求することになる。だが、それは容易ではなさそうだ。
仏教に「安心決定」(あんじんけつじょう)という境地がある。ひたすら信じて疑わない、信念を得て心を動かさないということで、これは桜花賞馬ハープスターの陣営にある境地だろう。川田騎手は、ひとつも取りこぼすことなく、目の前の一戦一戦を勝ち切っていきたいとこれからの思いを述べたが、この場合の心構えをことばにすれば、「勝つ戦いではなく、負けない戦いをせよ」だ。勝利を目前にして早く決着をつけようと気持ちが先走るとミスして自滅する。負けまいと食らいついて、ていねいなプレイを心掛ける方が、結果的に勝つということだ。さらに言えば、「一意専心」の心、まだ次があると思ってはならず、もう次はないと思って一瞬一瞬に全てを賭けるということでもある。木登り名人のことばにこんなのがある。最も危険なのは高所にいるときではなく、地面まであと一息というところだ。気の緩みが、人間にとっていちばん怖いという戒めなのだが、ハープスターには無用のことかもしれない。
生涯に一度しかチャレンジできないクラシックレースには、特に何とかしたいの思いが強く出るものだが、たまに無欲の勝利としか言えないシーンを見ることがある。スピードの絶対値とずば抜けた決め手がもとめられる皐月賞で、レースレコードをマークしたノーリーズンの勝利は、そんなケースに入る。8分の2の抽選を引き当てて出走し、18頭立ての15番人気。負傷した武豊騎手のかわりに手綱を取ったのがイギリスのブレット・ドイル騎手だった。タニノギムレットなど有力馬が後方にいる中、ひたすらそれらの前で流れに乗せていたが、終わってみればレコードタイム、能力をこの瞬間発揮させたと言うしかなかった。さて、こんなシーンはこの春はあるのか。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。