第31期生修了式

2014年04月23日(水) 18:00

第31期生修了式

第31期生の集合写真


◆やはり期待するのはこうした若い世代になる。若者が育たなければ業界の未来はない

 去る4月18日(金)。1年間の研修を終えたBTC育成調教技術者養成研修第31期生21名が、全員揃って無事に修了式を迎えた。彼らがここに入所したのはちょうど1年前。以来、騎乗実技を中心に馬学全般を学び、晴れてここを旅立つ日を迎えたわけである。

 午前9時半に研修所を訪れると、ちょうど研修生と保護者との記念撮影が行なわれている最中であった。どの顔も晴れやかに輝き、1年間に及ぶ訓練に耐えてきた満足感と達成感が溢れている。もちろん全員がすでに就職先を決めており、21名中15名が日高管内に残る。そのうち浦河町内の育成牧場には5名が就職することになっている。

ご家族との記念撮影

ご家族との記念撮影

 午前10時前。数日前に落馬した1名を除く20名が、それぞれの騎乗馬に跨り、輪乗りを始めた。修了式の前に、実技査閲が行なわれることになっているからだ。

 場所はBTC北にある800mダートコース。輪乗りから教官を先頭に一列縦隊で研修所を出発する。幸い、この日はやや風があったものの好天に恵まれた。確か昨年は時折雪がちらつく寒い日だったことなど思い出しながら、改めて1年の経つのがいかに早いかを実感させられた。

 実技査閲会場となる800mダートコースに関係者が集まり始めた。保護者や就職先の牧場関係者、日高振興局や浦河町などの“お偉方”も顔を見せる。午前10時半。予定通り実技査閲がスタートした。2班に分かれた研修生が、グラス馬場から順に縦隊でコース入りする。半周の間隔を保ち、速歩からキャンターへとスピードを上げて行く。速度が徐々に増して、最後の2周では、ハロン15秒での併走となった。

 まだ多少危なっかしい研修生もいるものの、騎乗した全員が落馬することなく実技査閲を終えた。馬場の入り口付近で先輩の晴れ姿を見守るのが、今月8日に開講式を終え入所したばかりの32期生たちだ。わずか1年で乗馬未経験者がここまで乗れるようになることが彼らには大きな驚きのようで、ちょうど同じことを31期生も昨年春に経験したわけだが、この1年間の研修がいかに内容の濃いものであったかを示している。まだ作業衣やヘルメットも似合わない彼らが、徐々に環境に慣れてきて騎乗技術も向上してくるにつれて、だんだんと服装もそれなりに見られる姿へと変身するが、今はまだ入所して10日だから、まるで貸衣装に身を包んでいるかのようだ。

 実技査閲は30分程度で無事終了し、午前11時半からはBTC診療所二階の会議室にて修了式が行われた。1人ずつ修了証書が手渡され、32期生を代表して寺村賢二さん(29歳)が謝辞を述べた。寺村さんは神戸市で社会人として働いていたが、馬の世界への思いを断ちがたく、昨春ここに入所した。年齢的にも他の研修生とは10年ほどの開きがあり、加えて寮長という責務も負い、苦労の絶えない1年間だったと思うが、このほど無事に修了式を迎え、今春からは日高大洋牧場に就職する。

寺村賢二さん

32期生を代表して謝辞を述べた寺村賢二さん

 21名の就職先は日高管内の育成牧場が多く、すでに先輩が就労している牧場に偏りがちだ。労働時間や報酬などの待遇面とは異なり、求人票では窺えない職場の雰囲気などが重視されたということか。「ここはお勧めだからぜひ来てくれ」という先輩の言葉と「ここは止めておけ」というアドバイスとでは天地ほどの開きがある。依然として生産地の育成牧場では騎乗者不足が慢性化しており、乗れるしっかりした日本人の若者は引く手あまただが、いくら求人を出しても思うように騎乗者が集まらないのが実情で、その不足分を東南アジアなどからの出稼ぎ騎乗者に頼っているのが実情だ。そうした中でこの育成調教技術者養成研修課程はわずか20名内外とはいえ即戦力を送り出しており、注目度がひじょうに高い。

 修了式後の昼食会で乾杯の音頭をとった本巣俊光・日高軽種馬農協理事が、「馬に乗れなくなっても生産現場でぜひ末永く馬に関わった仕事を続けて頂きたい」と31期生たちにエールを送った。今はまだ若い彼らだが、40代にもなれば体のあちこちにガタがきて、乗り続けるのが辛くなる。そうなった時に騎乗技術以外のスキルを身につけておけば潰しが利く。多くは育成馬に乗り続けるのが難しくなった時に人生の岐路を迎えることになり、そこで何とかこの業界に踏みとどまり、できることなら日高でぜひ「自分の牧場を持つ」ことを考えて頂きたいものである。

実技査閲

実技査閲の様子(内・鈴木隆矢君、外・高橋有伽さん)

 年々、日高の牧場軒数を今後どのように“処理”して行くかが実は地域全体の大きな問題にもなりつつある。新規参入へのハードルが今後ますます下がってくるのは必至で、その意味では逆に大きなチャンスとも言えそうだ。やはり期待するのはこうした若い世代になる。若者が育たなければ業界の未来はないと思われるからである。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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