2014年05月07日(水) 18:00
この時期、日高ではセレクトセールに上場申込を済ませている当歳馬と1歳馬の写真撮影がピークである。日程的には5月14日までに日本競走馬協会(東京)に着くよう送付しなければならない。あらかじめ生産者の元には書類一式が送られており、撮影した写真は「着払い」で所定の袋に入れ、コンビニなどからでも発走できるようになっている。
ただ、いくつかの決まりごとがあり1.デジカメで撮った写真データであること、2.撮り直しによる写真の「差し替え」ができないこと、3.提出締切日までに写真が提出できない場合は販売申込を“取消”とすること、などが明記されている。
5月14日必着とあるからには、遅くとも12日までに発送しなければならない。となると撮影は11日中に済ませる必要がある。頭数の多い牧場では大型連休中から撮影を開始しているものと思われるが、日高の中小牧場の場合は、まず連休明けの今頃の時期にそれが集中する。とりわけ、当歳馬が何とも厄介だ。
この春に生まれた当歳の場合は、まだ日が浅く、馴致も不十分なために概して時間を要する。中には誕生して数日しか経過していないようなものも出てくるので、「ようやく立っているだけ」の当歳馬を撮影するとなると大変な労苦となる。
生まれたばかりの当歳立ち写真(写真はイメージです)
写真は三点必要だ。前、後、そして横である。この横写真はセレクトセールで発行されるカタログ用にそのまま使用されるため、プリント写真とともにデータも送らなければならない。プリント写真三点は、来る5月22日に予定されている審査委員会の際に、参考資料として合否の判断に供される。とはいうものの、日高の牧場に限らず、実際はおそらく血統でかなりの部分が篩にかけられることとなるだろう。母系が優秀な牡の当歳で、父にディープインパクトやキングカメハメハという名前でも記載されていればまず合格圏内であろう。たとえ生まれて一週間程度の、ヨロヨロとした不格好な立ち写真の当歳であっても、血統が良ければそれでOKとなるはずだ。なぜならばセールは7月のことだからである。
ある程度の規模の牧場であれば、スタッフの人手もあり、馬具も揃っており、撮影場所(背景の抜けた広々とした被写体の映える場所)も確保されていることが多く安心だが、個人牧場の場合は必ずしもそうとは限らない。今年も、敷地の大半に傾斜があり、まず平らで抜けの良い場所を探すのに骨が折れた牧場もあった。また牧場の労働力が夫婦だけ(しかも割に高齢)で、現実問題として馬を抑えてきれいに立たせることが難しい例もなくはなかった。
中には「写真なんかなくてもいいんじゃないか」と“キレる”生産者もいないではないが、今ではセレクトセールはもちろんのこと、日高で行なわれるセレクションセールでも立ち写真は必須だし、サマーやオータムなどの普通のセールでも写真提出が求められる。したがってこれは生産者としてはどうしても避けて通れない“仕事”になってくる。
だが、このおかげで、近年、写真のレベルは飛躍的に上昇したとはいえるだろう。セレクトセールとて、最初の頃にはかなりひどい写真も混じっていた。例えば競走馬の場合は本来左向きの立ち写真が原則なのだが、どういうわけか右向きであったり、耳がきちんと立っておらず寝ていたり、また母子一緒に映っているのも見た記憶がある。これが一冊のカタログになった時に、他の牧場の写真と比較して明らかに見劣りするレベルだと、翌年からはできるだけ一定水準に近づけようと努力をする。それが全体のレベルアップに繋がるのだと思う。
とりわけ当歳馬の場合は、いざセール上場を目指そうと思えば現状ではセレクトセール以外に方法がないため(今年度、日高軽種馬農協主催のオータムセール当歳は行なわれない)ここに集中することになる。まずは選定委員会で合格通知をもらうところから戦いがスタートする。思えばとてつもなく長い道のりだ。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。