2014年06月04日(水) 18:00
第42回北海優駿の口取り風景
◆有力馬であればあるほどより賞金の高い地区へ転出して行くのがこのホッカイドウ競馬の泣き所
全国で最も気温の高かった3日(火)の北海道。旭川や帯広、またはオホーツク海側内陸部にある北見などが軒並み猛暑日で、いささか面喰うほどの灼熱地獄となった。まだ6月になったばかりだというのに、いったいどうなってしまったのか。
ただ、日高沿岸はそれほどの暑さにもならず、日中でだいたい23度〜24度。門別競馬場は日が落ちるにしたがい、14度〜15度まで気温が低下した。申し訳ないくらいの快適な気候で、ナイターの競馬観戦にはちょうど良い気温であった。私宅から門別競馬場までは100キロ弱。車で1時間半ほどの道のりだ。しかし、午後7時過ぎに現地入りしたものの、予想したほどの人出ではない。観客エリアが狭い門別の場合はざっと見渡しただけでおおよその入場人員が判断できるが、混雑どころかやや閑散とした雰囲気であった。いささか拍子抜けしてしまった。
この日の門別は全10レース。最終レースが第42回北海優駿である。出走馬は全部で12頭だが、メンバーは概して小粒で、重賞勝ち馬不在であった。昨年2歳時に北海道2歳優駿を制し、そのままの勢いで川崎の全日本2歳優駿でも楽勝したハッピースプリントは南関に移籍。また同じく、栄冠賞とフローラルカップを勝ったノットオーソリティも南関に転厩してしまっており、有力馬であればあるほど、より賞金の高い地区へ転出して行くのがこのホッカイドウ競馬の泣き所でもある。
開幕日(4月23日)に行なわれた三冠競走第1弾の北斗盃を制したラブミーブルーも、距離適性がないと判断された(父サウスヴィグラス)せいかここは回避し、やや寂しい顔ぶれとなった。
辺りが暗くなり、8レース、9レースと進むにつれ人が増えてくるのではと期待したものの、パドックを囲むファンの数は多くない。また生産者もあまり見かけることがないまま10レースを残すだけになった。
12頭がパドックに現れ、周回を重ねる。柵に沿って人々が並び、出走馬に視線を送る。だが、二重三重の人垣ができるまでには至らない。馬主などが見守るウッドデッキ上もガラ空きで、何とも寂しいほどの光景である。
やがて出走各馬が騎手を乗せて、本馬場入りとなった。人が少ないせいで、すべてが淡々と流れる。ゴール前に移動し、埒沿いから観客席を振り返ってみたが、スタンドから降りてくるファンの数も決して多くない。
出走各馬が思い思いに返し馬を行ない、4コーナーポケットの待機場所に移動して行く。1番人気は日本ダービーを勝ったワンアンドオンリーと同じハーツクライ産駒のフレイムハーツ(2.5倍)。続いてスマートボーイ産駒のダテオトコが2番人気(4.3倍)。ただし、中心馬不在で、人気はやや割れている。
レースは定刻通りにスタートした。ハーブティーとハピネスチャンスがレースを引っ張り、縦長の展開で各馬が4コーナーを回る。直線に向いて最内から12番ワイルドサプライズ(五十嵐騎手)が抜け出したが、その外からヤマノミラクルが襲いかかり、粘るワイルドサプライズをゴール前残りわずかのところで交わして首差で先着し、優勝した。
ヤマノミラクルがゴール前でワイルドサプライズを差し切る
レース自体は決して悪くなく、見応えのあるものであった。ワイルドサプライズから2馬身遅れて3番スタンドアウトが3着に入線した。
本命に推されたフレイムハーツは5〜6番手で4コーナーを回ってきたものの、直線で伸びを欠き、6着に敗退した。
優勝したヤマノミラクルは父カンパニー、母ケイアイリード、母の父フォーティーナイナーという血統の3歳牡の栗毛で、井上俊彦騎手が騎乗。松本隆宏厩舎所属。馬主は山口明彦氏。新冠・石郷岡雅樹牧場生産。井上騎手は89年タキノニシキ、96年クローリバーに続いて3度目の北海優駿制覇。また松本隆宏調教師は騎手時代にはリバーストンキング、モミジイレブンでこのレースを制しているが、調教師になってからは初の優勝であった。
実に18年ぶりの優勝騎手となった井上俊彦騎手はさすがに勝利騎手インタビューの際には満面の笑みを浮かべ、坂田博昭アナの質問にも嬉しそうに答えていたのが印象的であった。ヤマノミラクルはこれで通算成績が17戦4勝、収得賞金は1010万6千円となった。
18年ぶりの優勝騎手となった井上俊彦騎手
なお、北海優駿の少し前に、大井競馬場では第10レース「東京スポーツ杯」1600m(B1-2組、B2-1組)が発走時間を迎えた。そこに偶然、昨年の北海優駿優勝馬ミータローが出走しており、1着で入線した。
その大井競馬場では、今日、第60回東京ダービーが行なわれる。ハッピースプリントは南関転入後も京浜盃(3月12日)羽田盃(4月23日)を連勝しており、ここでも圧倒的1番人気に支持されている。何せダートでは7戦全勝であり、前走の羽田盃でも5馬身差で圧勝している。ここでもまず不動の主役であろう。
ホッカイドウ競馬の宿命とはいえ、北の大地でデビューして、能力を見込まれた馬であればあるほどよりレベルの高いステージを目指して旅立って行く。11月以降、半年間のブランクがあることも大きい。今年の北海優駿のメンバーを見ていると、ホッカイドウ競馬が全国に向けてサラブレッドの一大供給基地になっている現実を改めて感じさせられた。
この日の入場人員は611人(前年比-100人)、売り上げは1億8146万円(-2842万円)と伸び悩んだことを付け加えておく。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。