2014年06月11日(水) 18:00
JBBAの騎乗訓練風景
◆BTCと良い意味でのライバル関係になることは、双方にとって必ずプラスになる
これまで主として浦河にあるBTC(軽種馬育成調教センター)の育成調教技術者養成研修について紹介してきたが、日高にはもうひとつJBBA(日本軽種馬協会)が実施している生産育成技術者研修というよく似た名前の養成機関があり、両者はしばしば混同されがちなくらいに内容も期間も似ている。
先日、このJBBAの研修風景を覗いてきた。場所はエンパイアメーカーやヨハネスブルグなどが繋養されている新ひだか町静内田原のJBBA静内種馬場の敷地内にある。
発足は1990年(平成2年)。「競走馬の生産・育成関連の仕事に就業するための基礎となる知識、技術の習得を目的」にスタートした。当初、研修は半年間であったが、現在は春に入所し翌春に修了する1か年である。現在36期生12名(うち女性2名)がここで寮生活を送りながら日々研修に勤しむ。
お邪魔した日の午前は騎乗訓練の真っ最中であった。敷地内にある覆馬場を使って、5名の研修生が部班運動を行なっていた。山口直人・研修課長が1人ずつに対して指示をしながら、常歩〜軽速歩〜横木通過を繰り返す。進度ではややBTCの育成調教技術者養成研修の方が進んでいる印象だが、その辺について山口課長は「ウチは乗鞍数もBTCほどは多く取れないので、焦らずにやっています」とのことであった。
気候が良くなってくるにつれ、そろそろ外の馬場での訓練に移行しても良さそうな時期だが、まだここでは覆馬場内での基礎訓練に重点を置いている。4月初めからここの研修がスタートしており、ちょうど2か月経過したところだが、山口課長によれば「乗馬以外の作業があれこれ重なってきて、そうそう乗せてばかりもいられない」事情があるらしい。
例えば、草刈り。本州と比較すると北海道の場合は寒冷地のせいで地面が緑色になるのが遅いのだが、その代わり、5月半ばを過ぎると一気に草丈が伸びてくる。かなり広々とした研修所の敷地内を整備するためにこの時期は草刈りが欠かせない作業となるらしい。
「エンジンのついた刈り払い機を持たせて研修生に作業させますが、ほとんどそんなものを持ったことのない若者が多くて一から指導しなければなりません」と山口課長。
最初は面白がって取り組むものの、やがて平面から斜面になったり、牧柵の周囲など障害物の多い複雑な地形の作業になると嫌気がさしてくるらしい。この時期は刈っても刈ってもまたすぐに草が伸びてくるので、秋までこの作業から解放されることがないのだから無理もない。
「牧柵の修理も今ちょうど取り組んでいるところでして、午後は半分がその作業に回ります」とも聞いた。防腐剤を注入した木製の牧柵をスコップや大工道具を使って修理するのも、大切な研修なのだという。なるほど実際に牧場に就職すると、あらゆる仕事をこなせるようにならなければいけない。こうした様々な作業を通じて「現場で即戦力となるような人材を育成して行く」のが大きな目的だと山口課長が強調する。
BTCの場合は、研修の中心が騎乗訓練に特化しており、あくまで乗る技術の向上を第一義としている。だが、JBBAの方は、乗る技術の習得はもちろんだが、それ以外の、生産全般についての幅広い知識や経験の習得にも重きを置く分、騎乗に関してはBTCほどの時間数を割けないらしい。ここの乗馬は年間250鞍くらいだが、BTCでは400を軽く超える。個人差があるとはいえ、こと騎乗技術に関してはいくらか差がついてしまうかも知れないとは思う。
因みに6月の今の時期になると、BTCではすでに外の馬場で駈歩での併走にチャレンジしている。教官が横について大声で1人ずつにアドバイスしながら、騎乗フォームをみっちりと叩き込んでいる。
山口課長によると、春から秋までかけて基礎訓練に重点を置いて騎乗技術を習得させても、外の馬場が使用できなくなる12月から翌年3月までの、よりステップアップした訓練ができないのが悩みなのだという。BTCの場合は近くにあるJRA日高育成牧場の育成馬を調教する機会にも恵まれているが、JBBAは覆馬場内で訓練馬に乗る以外にないらしい。
軽々しいことは言えないが、現在、ほぼ没交渉になっている(と聞いた)BTCとJBBAの研修生同士の交流や合同訓練のような機会がもっとあっても良いような気がする。
ともに春に入所し翌春に修了式を迎えてそれぞれの民間牧場へと就職するのは基本的に同じである。お互いのレベルアップにもつながるはずなので、JBBAの研修生も、例えばJRA育成馬の調教などに積極的に参加させてもらってはどうだろうか。
BTCが21名、JBBAが12名。どこかに研修に向かう際にも大型バス一台でちょうど良い人数である。わずか40数キロしか離れていない位置関係にありながら、現状では全く交流がないというのもやや不自然な印象がある。良い意味でのライバル関係になることは、双方にとって必ずプラスになるものと思う。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。