2014年06月17日(火) 18:00 72
■ジョッキーとはつくづく業の深い仕事
競馬学校2年生のとき、授業の一環でトレセンでの厩舎実習があった。その名の通り、調教も含めてトレセンでの一連の作業を学ぶのだが、ある日、北橋先生に呼ばれて馬房に行ってみると、1頭の馬の馬房の前に獣医さんがいた。
ストロングアモール。大井から転厩してきた馬で、自分が調教に乗っていた馬だった。中央初戦を2番人気で迎えたが、レース中に骨折して競走を中止。安楽死処分が決定していた。
横たわった馬に獣医さんが注射を打つと、立ち上がれないはずの馬がいきなり立ち上がって、次の瞬間、バタンと倒れた。もう、可哀そうで可哀そうで、自分は何も考えられずにビービ―泣いているだけだった。
直視していた自分に「いいか祐一、ちゃんと見ておけ。俺たちの仕事はこういう犠牲の上に成り立っている仕事なんだぞ」って。先生はそれしか言わなかったし、自分もすぐには理解できなかったけど、「馬は命を懸けて走っていること、だから馬に対しては真摯でいなければいけないこと、でも過度な思い入れは禁物であること」など、いろいろと教えようとしてくれていたんだと思う。
その出来事は、ジョッキーになってから今に至るまで、自分に大きな影響を及ぼしている。・・・
福永祐一
1976年12月9日、滋賀県生まれ。1996年に北橋修二厩舎からデビュー。初日に2連勝を飾り、JRA賞最多勝利新人騎手に輝く。1999年、プリモディーネの桜花賞でGI初勝利。2005年、シーザリオで日米オークス優勝。2013年、JRA賞最多勝利騎手、最多賞金獲得騎手、初代MVJを獲得。2014年のドバイDFをジャスタウェイで優勝。