スピードの時代だからこそ・・・(1)

去年の夏、JRAのレースにおける、ある記録が1頭の若駒によって塗り替えられた。

 水を吸った函館の馬場を3コーナーからスパート、直線に入っても脚色は衰えない。
その馬は、初めての古馬混合戦となった積丹特別で、2着になんと2秒8もの大差をつけてゴールしたのであった。
 それまで2秒6であった「2着馬とのタイム差」の記録を塗り替えて、その馬・バンデは秋のクラシック戦線に名乗りを挙げたのである。

「パワーがあってスタミナも豊富。菊花賞に出してやりたい」

調教助手はレース後にこう語ったが、トライアルのセントライト記念は6着。菊花賞への出走はきついローテを承知で臨む条件戦の結果次第になった。

9月29日兵庫特別。菊花賞に向けて負けられない一戦。ここでもバンデは衝撃的な走りを披露した。スタート直後から先手を取ると、直線でもメンバー最速の上がりタイムを出す6馬身差の圧勝であった。

2400mを超えて活きる、この馬のスタミナと持久力。父は日本では重すぎると見られるサドラーズウェルズ系のオーソライズド、兄には香港ヴァーズ勝ち馬のドクターディーノがいる、世界的な良血馬である。バンデはこの圧勝により、3番人気の有力馬として菊花賞を迎えた。