2014年07月05日(土) 12:00 11
ハーネスレースとは、馬に2輪の馬車をつなぎ、速歩(4本の脚のうちいずれかを接地させる走り方。人間で言えば競歩)で争う競馬。騎手(ジョッキーではなくドライバー)は馬車に乗って馬を御します。
速歩には、ペースとトロットの2通りの走法があります。ペースは右前肢と右後肢、左前肢と左後肢をセットにして動かす走法。トロットは右前肢と左後肢、左前肢と右後肢をセットにします。日本語にするとペースは側対歩、トロットは斜対歩。人間が右手と左足、左手と右足をセットにするのと同じで、馬にとってもトロット(斜対歩)のほうが自然な走法です。ほとんどのハーネスレースがペースで行われていますが、数は少ないもののトロットのレースもあります。
走法だけでなくスタート方法も独特。最も一般的に行われているのがペースカーの先導によるモービルスタートです。車体後部に枠番を示す横長の金網を取り付けたペースカーが出走馬を先導して走り始め、馬はその直後を走りながら枠順に整列。スタート地点になると、ペースカーは金網をたたんでスピードを上げ、馬の前から走り去っていきます。そこからがレース本番。ここでさらに加速して先行するか、いったん後方に控えるか。メンバー構成や展開、馬の脚質などを考慮しながらのドライバーによる駆け引きが繰り広げられます。
このほか、駐立した状態から走り出すスタンディングスタート、パドックを小さくしたようなスタート用の馬場を回って枠順に整列し本馬場へと走り出すペースカーなしのモービルスタートと、これまで私が見てきたかぎりでは3通りのスタート方法がありました。
ハーネスレースは、走法とスタート方法、それに距離を組み合わせることで番組に変化をつけているのですが、スタンディングスタートのレース(主にオセアニアで実施)はトロット(斜対歩)のみ。その理由は、よく考えればわかります。駐立した状態の馬をスタートさせるのに、自然ではないペース(側対歩)で動かすのは難しいでしょう。馬場馬術ならそうさせることも技術の1つとして評価されるかもしれませんが、速さを競う競馬でそんな“無理”をする必要はない、ということだと思います。ちなみに、先日観戦したフィラデルフィアの開催では全14レース中12レースがペース、2レースがトロット(いずれもモービルスタート)でした。
日本では昭和40年代前半までに競馬場から姿を消したハーネスレースですが、イギリスを除く欧米、オセアニア各国では盛んに行われています。海外旅行のついでに見に行ってみてはいかがですか?
矢野吉彦
テレビ東京「ウイニング競馬」の実況を担当するフリーアナウンサー。中央だけでなく、地方、ばんえい、さらに海外にも精通する競馬通。著書には「矢野吉彦の世界競馬案内」など。