2014年07月14日(月) 12:00 76
▲佐藤哲三騎手が手綱を取ったキズナの新馬戦
◆きっかけはタップダンスシチー
赤見 哲三さんって、今の時代では少なくなってきた“一頭の馬を育てていく”というイメージがあります。馬とコンタクトを取って、一緒に戦っていくような。
佐藤 そうかもしれないですね。僕の状況がそうさせているのもありますし。一流ジョッキーのように、「良い馬なので乗ってみなさい」と言ってもらえるような環境だったら、僕もそういうジョッキーになっていたかもしれない。
でも、僕の現状だとそれではテッペンを取れない。それならどうすればいいかと考えた時、自分の馬を意のままにコントロール出来ればよいと。一流の馬はだいたい切れ味重視の競馬になってくるので、それに太刀打ちするには、例えばコーナーが4回ならその4回をきれいに回って、中距離レースならその4回で他のジョッキーより1秒上手く回る。それが馬に伝われば、馬は気分良く走ってくれますからね。馬に頼るけど、頼り過ぎない。ジョッキーの腕でなんとか出来る事がある、というのが僕の中にあります。
赤見 ジョッキーの力で、馬の力をさらに引き出すような。
佐藤 僕は、なるべくたくさんテレビに映る競馬をして、結果を出したいんですね。馬券を買っているファンの人に「行けるんじゃないかな!」って思ってもらって、楽しんでもらいたい。最初に言ったような、“一流のホースマン”と言うより“一流のギャンブルレーサー”でいたいというのは、そういうところなんです。
「馬のことを第一に考えて」と言うと、ゆっくりとゲートを出してとなるかもしれないですが、僕はまず勝てる位置を取りに行って、その後にゆっくりさせてあげたい。引っ掛かるリスクもあるので、ある意味ギャンブルかもしれないですが、そこは恐れずに。セオリー通りにというより、攻めていった方が僕の性にも合いますしね。馬にもその気持ちは伝わるので、そういうのが僕の乗り方かなと思います。
赤見 そういうお考えになったきっかけの馬はいるんですか?
佐藤 きっかけは、タップダンスシチーですね。中山のアルゼンチン共和国杯で、思いっきり引っ掛けられたんです。「馬に合わせて気分良く、位置取りは関係なく」と思っていたら、タップが「オレの競馬はこんなんじゃない!」って。前の馬がいるのに、ガンガン乗っ掛かりに行きそうになりました。あれは、自分の考えが甘かったと思いました。その時に一緒に乗っていたオリビエ(ペリエ騎手)は、タップがそうなっているのをちゃんと見てましたね(苦笑)。
帰りの新幹線でどうしたらいいか考えたんですが、多分タップは「もっと後ろから」とか「もっと前だ」って怒っていたような気がしたんです。後ろからではダメかなと思ったので、前へ行ってみようと思って乗ったのが、あの有馬記念なんです(13番人気2着)。
赤見 あのレースは、強烈に印象に残っています。スタートしてタップがハナに立って、その後にファインモーション(1番人気、武豊騎手)がハナを奪って。それを、2週目の向こう正面で再びタップがハナを奪い返すという積極的なレース。
佐藤 あの乗り方には賛否両論あったと思いますが、あれは僕とタップとのコミュニケーションのなかで、タップが怒りそうになったところで行きました。怒ってからだと遅いので、怒る手前から行こうと思っていて、ああいう形になりました。
▲“名コンビ”と言われるタップと哲三騎手、実は…!?
◆大胆な騎乗は、最上の繊細から
赤見 あのレースから、哲三騎手とタップのコンビが一躍有名になりました。・・・
東奈緒美・赤見千尋
東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。
赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。