週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

2003年12月16日(火) 11:31

 香港国際競走の開催を2日後に控えた12日(金曜日)、シャティン競馬場で、各国のプレスを集めてニューテクノロジーの発表があった。

 香港ジョッキークラブが巨費を投じて完成させたシステムの名は、"Sectional Timing Racing Information Dynamic Entertainment(STRIDE)"。日本語にするなら、「ラップタイム情報公開システム」とでもなろうか。これは、レースにおけるラップタイムを計測する、画期的な新技術であった。

 レースにおけるハロン毎、もしくは2ハロン毎のラップタイムは、現在もほぼ世界各国の先進競馬開催国で計測され公表されている。だが、これはあくまでも、各々の計測ポイントを先頭で通過した馬を対象とした測定値である。これに対してSTRIDEとは、出走各馬それぞれのラップタイムを、個別に計測して公表しようというシステムなのである。

 ファンが予想を組み立てる場合、大きなファクターとなるのが「展開」である。スローを後方から追い込んで届かなかった馬や、ハイラップで逃げて渋太く粘った馬に、次走における狙い目が立つ以外にも、例えば、3角から4角にかけてひと際目立つ良い脚で追い上げた馬がいたりした場合、「あの脚をゴール前で使えれば」といった観点から、次走狙ってみたいと思った事が馬券ファンなら誰でもあるはずだ。そんな、レース中における各馬の動きを数字で確認する事が出来るのが、STRIDEなのである。

 技術的には、各騎手がヘルメットに被せる帽色の裏側に超小型の発信機を装着。コース外側に設置された5箇所のレーシーバーで信号をキャッチし、それぞれの馬の2ハロン毎の通過タイムを計測するのである。同時に、これを利用すれば現在進行中のレースの隊列が即座に判明するから、場内のスクリーンには先頭がどの馬で2番手がどの馬でという情報が、逐次表示される事になるのである。

 例えば、香港マイルで先行し、直線あわや勝ったかという競馬をしながら、ゴール前で香港勢2頭に差されて3着に敗れたローエングリン。一見するとゴール前でバテたのが敗因のように見えるが、ローエングリンの上がり2ハロンのラップタイム24秒311は、上位2頭(ラッキーオーナーズが23秒947、ボウマンズクロッシングが23秒678)には及ばないものの、全体で見ると出走14頭中5番目の数字で、決して悪いものではない。つまり、ゴール前に来て極端にバテたわけではないので
ある。

 むしろ問題があったとすれば、その前の2ハロン(ゴールから逆算すると、後800mから後400mまで)。ここでローエングリンが要した23秒797というラップタイムは、出走14頭中11番目という悪さだった。場所で言えば、3角から4角。いかにもフワフワとし走りで大外に振られたあの場面で、ローエングリンは大きくタイムをロスしていたのだ。逆に言えば、あのポイントをしっかりとしたコーナーワークで切り抜けていれば、勝ったかどうかはわからないが、もっと際どい勝負になっていたことは間違いないのである。

 香港ジョッキークラブのホームページをご覧いただけると、国際競走4レースにおける出走各馬のラップタイムが表示されているので、ぜひ御参照いただきたい。今回はあくまでも試験的な運用ということだったが、システム上に問題が無いとなれば、来シーズンから本格的な運用に入る予定となっているSTRIDE。世界の競馬開催国の注目を集めることになりそうだ。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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