2014年09月17日(水) 12:00 52
G1凱旋門賞(芝2400m)の開催を3週間後に控えた14日(日曜日)、今年もロンシャン競馬場では、本番と同コース・同距離の重賞が3競走施行された。
パリ地区はこのところ10日以上にわたってまとまった雨がなく、馬場状態はBon(=良馬場)。乾いて走りやすい路面となった。
今年は8頭立てとなった中、2.8倍の1番人気に推されたのがエクト(牡3、父ハリケーンラン)だ。2歳時は5戦し、G1クリテリウムインターナショナル(芝1600m)、G3シェーネ賞(芝1600m)の2重賞を含む4勝。今季初戦のG3フォンテンブロー賞(芝1600m)でも、次走G1仏二千ギニー(芝1600m)を制するカラコンティを2着に退けて優勝し、3歳クラシックの最有力候補となった馬である。ところが、その後故障を発症して、春の2冠はいずれも回避。立て直しを図り、5か月振りの出走となったのがニエル賞だった。ちなみに、ニエル賞当該週の火曜日に、本馬の権利の50%をカタールの王族ジョアン殿下のアルシャカブ・レーシングが取得したことが発表されている。
オッズ3.5倍の2番人気が、愛国から遠征してきたアデレイド(牡3、父ガリレオ)。春の3歳クラシックには乗れず、ロイヤル開催のG2キングエドワード7世S(芝12F)でイーグルトップの2着になった後、北米に遠征してG1ベルモントダービー(芝10F)2着。続くG1セクレタリアトS(芝10F)を見事に制してG1勝ち馬の勲章を手にして、このレースに臨んでいた。
オッズ6.5倍の3番人気が、クリストフ・ルメールが乗るエンパイアメーカー産駒のテレテキスト(牡3)。今年4月にデビューし、メイドン(芝2000m)と一般戦(芝2000m)を連勝。続くG3リス賞(芝2400m)2着、G1パリ大賞(芝2400m)3着と、重賞でも堅実な走りを見せた馬である。
エクト陣営が先導役として用意したセラン(牡3)が逃げ、6番手内埒沿いにアデレイド、7番手にテレテキスト、8頭立ての最後方にエクトと、上位人気馬はいずれも後方に付ける展開に。
直線に向くと、大外に持ち出したエクトが弾けて一気に先頭へ。やや仕掛けが早すぎたか、一旦は同馬が2馬身ほど抜けた後、ゴール間際でテレテキストの強襲を受けたが、これを首差しのいでエクトが優勝。直線で前が壁になる局面があったアデレイドもよく追い込んだが、3着までだった。
久々に加えて、一気の距離延長を克服して勝利を収めたエクトに、大手ブックメーカーのコーラルは、凱旋門賞へ向けた前売りでオッズ6倍を提示。タグルーダ、アヴニールセルタンと横並びで1番人気に推すことになった。
そして今年の注目も、そのトレヴ(牝4、父モティヴェイター)に集まった。今季初戦のG1ガネイ賞(芝2100m)でシリュスデゼーグルの2着に敗れてデビュー以来継続していた連勝がストップ。続くロイヤルアスコットのG1プリンスオヴウェールズS(芝10F)もザフューグの3着に敗れた後、背中の筋肉を傷めていることが判明して休養に入り、ここは3か月振りの出走だった。直前にシャンティーで見せた調教の動きは悪くなく、ファンはオッズ1.4倍の1番人気に推すことになった。
オッズ5倍の2番人気が、3歳馬のドルニーヤ(牝3、父アザムール)。アガ・カーン殿下の自家生産馬で、叔父に凱旋門賞馬ダラカニやキングジョージ勝ち馬デイラミらがいるという良血馬である。デビュー2戦目のメイドン(芝2500m)から3連勝でサンクルーのG2マルレ賞(芝2400m)を制覇。一線級と戦うのはここが初めてだが、古馬より3.5キロ軽い斤量も魅力の1頭だった。
オッズ8.3倍の3番人気が英国から遠征してきた4歳馬ポモロジー(牝4、父アーチ)。仕上がりが遅れ、デビューは3歳6月になったが、そこから3連勝でG3ミネルヴ賞(芝2500m)に優勝。更に今季初戦となった、7月5日にヘイドックで行われたG2ランカシャーオークス(芝11F200y)も白星で通過。4戦して負け知らずでここに臨んできた馬だ。
典型的な逃げ馬が居らず、押し出されるように先頭に立ったのがポモロジー。一方トレヴは最後方に控え、その1頭前にドルニーヤが付ける展開に。
淡々とした流れのまま直線を迎え、粘るポモロジーに残り1F付近で並びかけていったのが、道中は3番手内埒沿いで競馬をしていた5番人気(21倍)のバルチックバロネス(牝4、父シャマーダル)で、両馬の競り合いはバルチックバロネスがポモロジーに短頭差先着。直線に向くと外に持ち出して追い込みを図ったトレヴは、一旦3番手に上がったものの、ゴール前でドルニーヤに差し返されて4着に敗れた。
バルチックバロネスは、アンドレ・ファーブルが管理する4歳馬。3歳春にG3クレオパトラ賞(2100m)を制して重賞初制覇を果したものの、その後は重賞戦線で勝ち星を挙げることが出来ず、ここ2戦はLRコンピエーニュ大賞(芝2000m)、LRラペピニール賞(芝2000m)と、相手の軽い準重賞を使われ、いずれも白星を挙げ勢いをつけてここへ臨んでいた。
この結果を受けブックメーカー各社は、凱旋門賞前売りでバルチックバロネスに20倍前後のオッズを掲げることになったが、現状では凱旋門賞当日の牝馬限定G1オペラ賞(芝2000m)に廻る公算大と見られている。
一方、4着に敗れて今季の戦績を3戦0勝としたトレヴは、オッズ8~11倍で3~6番人気と、前売り戦線における評価を大きく下げている。
1.8倍の1番人気となったのがフリントシャー(牡4、父ダンシリ)だ。昨年のG1パリ大賞(芝2400m)勝ち馬で、昨年のニエル賞に出走した段階では、凱旋門賞でオルフェーヴルとキズナの前に立ちはだかるとしたら「この馬」と言われるほどの存在だったが、そのニエル賞で4着に敗れると、凱旋門賞も8着に大敗。今季初戦となったG1コロネーションC(芝12F10y)でシリュスデゼーグルの2着となった競馬は悪くなかったが、続くG1サンクルー大賞(芝2400m)は4着。その後、出走を予定していたG1キングジョージ(芝12F)は熱発で出走を取り消しと、既に1年以上にわたって勝ち星から見放されている。
3.5倍の2番人気がスピリットジム(牡4、父ガリレオ)。3歳春のクラシックには乗れず、秋になって本格化。3歳10月にドーヴィルの準重賞(芝2500m)を制して特別初制覇を果すと、破竹の快進撃を開始し、今年6月のG2シャンティー大賞(芝2400m)まで4連勝。続いて駒を進めたG1サンクルー大賞(芝2400m)でも、英国から遠征してきたG1タタソールズGC(芝10F110y)勝ち馬ノーブルミッションらを退けて1着で入線したものの、レース後のドーピング検査で禁止薬物が発覚し、失格処分となった。ここはそれ以来、2か月半振りの出走だった。
4.5倍の3番人気は、愛国から遠征してきたルーラーオヴザワールド(牡4、父ガリレオ)。昨年春、デビューから無敗の3連勝でG1英ダービー(芝12F10y)を制した馬である。だが、続くG1愛ダービー(芝12F)で5着に敗れて連勝がストップ。秋初戦のG2ニエル賞(芝2400m)でキズナの2着となった競馬は「さすが英ダービー馬」と言えるものだったが、続くG1凱旋門賞7着、中1週で挑んだG1チャンピオンS(芝10F)3着と、後半は4連敗で3歳シーズンを終えている。今季初戦となったG1ドバイワールドC(AW2000m)では13着に大敗すると、じっくりと立て直しが図られ、ここは5か月半振りの実戦だった。
ハナを切ったのはルーラーオヴザワールドで、3番手内埒沿いにスピリットジム。6頭立ての4~5番手にフリントシャーの隊列に。
単騎の逃げとなったルーラーオヴザワールドが、直線に入っても脚色が衰えず、そのまま後続に1.1/2馬身差をつけての逃げ切り勝ちを果し、昨年のダービー以来1年3か月振りの勝ち星を手にした。直線に入ると外を追い込んだフリントシャーが2着。更に1.1/2馬身遅れた3着がスピリットジムだった。
この結果を受け、ブックメーカー各社は凱旋門賞へ向けた前売りで、ルーラーオヴザワールドをオッズ13~15倍の7~9番人気、フリントシャーを21~33倍の14~16番人気、スピリットジムを26~51倍の18~23番人気に評価することになった。
フランスの競馬日刊紙ジュール・ド・ギャロは16日の紙面で、前哨戦を終えた段階での凱旋門賞戦線検証を行なっている。そこで出された結論は、「3頭いる日本馬の誰かが勝利する可能性が強まった」であった。確かに、強力な新興勢力の台頭が見られたわけでもなく、現段階で凱旋門賞を占えば、「日本馬応援目線」では見ていなくても、日の丸がセンターポールに上がる確率は高まったと言って良さそうである。
合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。