2014年12月24日(水) 12:00 29
2011年から外国調教馬に門戸を開放し、国際競走となって以来、東京大賞典に外国馬が出走するのはこれが初めてのことになる。国際化の当初、出走する馬がいるとしたらジャパンCダート(現チャンピオンズC)からの転戦組になるのではないか、と言われたが、ご承知のように近年はジャパンCダートに出走する外国馬がほとんどおらず、残念ながらせっかく国際競走となった東京大賞典も昨年までは日本馬だけで争われていた。ソイフェットはチャンピオンズCからの転戦組ではなく、東京大賞典だけを狙っての来日で、こういう馬の誘致に成功した関係者のご努力に、まずは最大限の敬意と感謝を表したいと思う。
カリフォルニア州産馬のソイフェットは、同じくカリフォルニア産馬で現役時代は1勝しているサマージャーシーの3番仔として08年4月18日に誕生。生産者であるアーチャレーシングの所有馬としてゲイリー・ステュート厩舎に入ったが、仕上げに手間取り4歳1月になってようやくデビューを果すことが出来た。初勝利を挙げたのが4歳5月で、デビュー7戦目となったハリウッドパークのメイドン(AW9F)だったから、遅咲きを絵に描いたような馬だった。これはおそらく、父ティズバドから受け継いだ形質かと思われる。
ティズバドは、現役時代重賞未勝利で、全兄に全米年度代表馬のティズナウ、同じく全兄に重賞勝ち馬でG1BCクラシック2着のバドロワイヤルがいるという血統背景を買われて種牡馬入りした馬だ。ティズバド自身、2歳時は出走歴がなく、自身生涯最高の競馬をしたのが4歳春のG2サンフェルナンドSだった。ティズナウも2歳時は出走歴がなく、3歳夏以降に急上昇して超A級馬の座に昇り詰めた馬で、バドロワイヤルもまた、2歳時に出走歴がなかっただけでなく、5歳シーズン末までは特別勝ちすらなく、6歳時から上昇して7歳時に本格化した馬だった。そして、3兄弟の父シーズティジーもまた、2歳時の出走歴がない馬である。
そういう血統背景を持つ馬ゆえ、初勝利を挙げた後も下級条件で、大敗はしないかわりに勝ち切れない競馬を続けた後、ソイフェットに転機が訪れたのが5歳の5月だった。ハリウッドパークで行われたオールウェザー8.5Fのクレイミングレースに出走したところ、現在この馬を管理するレナード・パウエル調教師に1万6千ドルでクレイムされ、転厩することになったのである。
パウエル調教師は、フランス生まれ。アマチュア騎手として活躍した後、将来調教師として開業することを念頭に各地の伯楽のもとで修業。自国フランスはもとよりイギリスでも研鑽を積んだが、自分が厩舎を開くならここと思い定めたのはアメリカの西海岸で、リチャード・マンデラ、ニール・ドライスデール、ジョン・シレフスといったトップトレーナーの下で更なる修業を重ねた後、30歳を目前に控えた05年に開業したという、若いながらも様々な経験をしている調教師である。
パウエル師を応援するジェラルドとサンドラのベノウィッツ夫妻を中心としたパートナーシップの所有馬となったソイフェットは、次走となったハリウッドパークのカリフォルニア産馬限定戦(AW8.5F)を9.1/2馬身差で快勝。これを皮切りに、4連勝を飾ることになった。この馬にとって実が入る時期とたまたま一致した面もあったろうが、環境の変化もまた、ソイフェットが一変した上で大きなファクターとなったようだ。
この辺り、6歳2月にクレイムされたことをきっかけに本格化した、父の兄バドロワイヤルと大いに重なる部分がある。
4連勝後、陣営がソイフェットの次走に選んだのが、BCクラシックへ向けた西海岸における最重要プレップとなっているG1オーサムアゲインS(d9F)だった。重賞初挑戦がいきなりG1で、しかもオールウェザーで勝ち上がってきた馬をダートのG1にぶつけるという、一見すると無謀に見えた挑戦だったが、ここでソイフェットは3着に健闘。勝ち馬からは6.1/2馬身離されていたが、その勝ち馬は次走BCクラシックを制するムーチョマッチョマンだったから、この3着は相当に価値のあるパフォーマンスだった。
その後、特別戦や条件戦では勝利を収めるものの、重賞ではG3ネイティヴダイヴァーS(AW9F)5着、G2チャーリーウィッティングハムS(芝10F)6着、G2サンディエゴH(AW8.5F)7着と、今ひと息の競馬を続けた後、ソイフェットが更にひと皮向けた超絶パフォーマンスを見せたのが、今年9月6日にロスアラミトスで行われたダート8Fの特別ロスアラミトスマイルだった。
グリーンチャンネルなどで既に何度も放送されているので、御覧になられた方もたくさんおいでのことと思う。隊列が落ち着くと2番手で折り合ったソイフェットは、直線残り1F標識の少し手前で満を持して先頭に躍り出ると、1頭だけ桁違いの末脚を発揮し2着以下に7.1/4馬身差をつける快勝。その瞬発力に目を見張ったファンは、勝ち時計が1分33秒95のトラックレコードであったことを知り、目の前で見たパフォーマンスの水準の高さに改めて感嘆したのだった。
また、ダートでは9Fまでしか走っていないが、父や父の兄たちの距離適性を考えれば、1Fの延長は全く問題にしないはずだ。
むしろ気懸りは体調だろう。温暖なカリフォルニアから、ここへ来て一段と寒さが厳しい日本に到着したのが18日だった。それも、入国検疫を受ける場所は栃木県の那須塩原にあるNAR教養センターで、中間には降雪すらあった寒冷地だ。帯同スタッフも含めて、これまで経験したことのない気候のはずで、本番までの調整過程には充分に注意を払う必要がありそうだ。
決して超一流馬というわけではないが、北米の中では最も競馬の水準が高い地域の1つである南カリフォルニアで、重賞戦線に顔を出している馬だ。体調さえ万全で、大井の馬場を巧くハンドリング出来れば、見苦しくない競馬はしてくれることと思う。
【更新スケジュールのお知らせ】
いつも当コラムをご愛読いただきありがとうございます。年内の更新は今回が最後となり、年明けの初回は1/7(水)になります。
合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。