急場をしのぐ一手

2015年03月05日(木) 12:00


岩田騎手の判断に応えたヌーヴォレコルト

 明日は明日の風が吹く、そう言い聞かせて急場をしのぐことがある。そこには、後は野となれ山となれという気分があって、思い切った自分を前に進められるからいい。これがときたま成功するから、バカにならないのだ。これを競馬に期待することもあるのではないか。どうせなら、無理でもいいからやるだけやってみてほしいと。人間の欲は、それぐらいのことは平気で求めるもの。勝つか負けるかの瀬戸ぎわでは、これぐらいのことはあってほしいと思っているのが人間だ。許すか許さないかはその時の立場で異なる。

 中山記念を勝ったヌーヴォレコルトは、さすがオークス馬と思わせたが、あの狭い内側ぎりぎりのところをよく突いてきたものだ。岩田騎手は、そこしかないの判断で勝負師らしさを発揮したが、それに応えたこの牝馬の根性も大したものだった。相手が新旧2頭の皐月賞馬だったという状況を考えれば、急場をしのぐためのこの手も、あって仕方ないとも思えた。十分な間隔がないのにというインターフェアを取られたのも止む得ないこと。勝負が厳しくなれば、起きてしまうのも競馬だと、知る者は承知している。ロゴタイプのC.デムーロ騎手が、「今回は勝った馬が強かった」と述べたのも競馬だからで、あくまでも「今回は」だけなのである。「今度は」に期すのは、敗者なら当然だ。「一日の苦労は一日にて足れり」というように、今日は今日、明日は明日の運命がひらける。「毎日が新しく、毎日が門出である」という松下幸之助の言葉を思い出す。日々是新ならば、日を是好日、創意に富んで毎日を明かるくと全てに言いたい。

 こうした難しい局面に立ち向うのも競馬なら、全くのワンサイドの強さで他を圧倒するのも競馬だ。弥生賞といえば、時たま、こうした次元の違う強さを見せる強豪が出現するレースであり、春のクラシックを見据え、それを期待する面もある。ダービー馬アグネスフライトの弟で、2歳重賞でクロフネ、ジャングルポケットを一蹴、この弥生賞でも圧勝し不敗のまま皐月賞に向ったアグネスタキオンも、そうした馬の一頭だった。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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