2015年04月15日(水) 18:00 48
やや風は冷たいものの、良く晴れたこの日、日高育成牧場には約200人の関係者が集まった。近隣の育成牧場関係者や馬主、調教師などもいたが、自身の生産馬が展示される生産者の姿が多く、「我が子の晴れ舞台」を見学にやってきた親のような心境で、すっかり成長した生産馬と半年ぶりに対面する姿があちこちで見られた。
日高育成牧場でこの日展示されたのは全55頭(牡29頭、牝26頭)。午前10時よりまず全体を5つのグループに分けての比較展示からスタートした。
JRA職員に交じって、BTC育成調教技術者養成研修32期生の若者たちも、育成馬の手綱を持ち、展示を手伝っていた。彼らは昨春、BTCに入所し、今週金曜日に修了式を迎える。育成馬展示会への参加は、いわば最後の一大行事ということになる。後述するが、彼らは、展示の後、それぞれ担当馬に騎乗して関係者の見守る中を駈歩で走り抜ける騎乗供覧がある。
牡馬を3班、牝馬を2班に分割し、育成厩舎南側の広場に展示する。頭数が多いため、1班あたり展示時間は12分間隔と割に短い。1つの班が退場するのと同時に、次の班が入れ替わる。1班は9頭~13頭である。ぐずぐずしていると全馬を見ないうちにすぐに入れ替わることになるので、なかなか忙しい。ほとんど無駄のないスケジュールで進行して行く。
次の班との入れ替え風景
全馬の展示が終了したのは11時過ぎのこと。その後、30分間の休憩時間を挟み、場所を南側に隣接した千六ダートコースに移しての騎乗供覧となった。本番を2週間後に控え、各馬は上場番号の記されたゼッケンを装着している。牡馬の第1班が馬場に姿を現したのは11時半過ぎ。まずキャンターで軽く向こう正面まで移動し、集合。そこから2頭ずつの併走でスタートする。
今年は春先の天候が良く、外の千六馬場も例年より早くオープンしたという。気候的な制約から、3月までずっと屋内施設を使用せざるを得ないのが北海道の育成だが、そんな条件下でもある程度までは仕上げなければならない。これはなかなか大変な苦労があるはずだ。
屋内施設での調教風景
今年は3月30日に外の馬場が使用開始となり、JRA育成馬もこの日まで2週にわたり馬場入りを経験している。若馬たちなので、新しい馬場での調教を何度も経験させなければならない。
ブリーズアップセールでは、タイムを出すことよりも、走るフォームや馬の出来栄えに主眼を置いている、と言われる。したがって、騎乗供覧でも、それほど速い時計を出さないように騎乗される。だが、中には春の訪れとともにぐんぐん体調が良くなったのか、中には驚くような時計で駆け抜ける育成馬もいた。
牡馬グループでは、1班の1組目「ホーマンソレイユの2013」(エンパイアメーカー)と「シラタマの2013」(サウスヴィグラス)、そして4組目の「アーバンライナーの2013」(タニノギムレット)と「ゴールドコインの2013」(アドマイヤムーン)が、それぞれ2ハロン24秒を出していた。
2ハロンで24秒をマークしたアーバンライナーの2013(右)とゴールドコインの2013(左)
なお、牡馬のうち、終いの1ハロンの最速タイムは「モンタナの2013」(タイキシャトル)と「ヴァルネリーナの2013」(サムライハート)の11秒4であった。
牡馬で終い1ハロン最速タイムをマークしたモンタナの2013(右)とヴァルネリーナの2013(左)
この時期は例年牝馬の方が仕上がっている印象だが、今年も騎乗供覧における最速タイムは、「マルカジュリエットの2013」(牝、父・スウェプトオーヴァーボード)の11秒7、11秒2で合計22秒9。騎乗者が追わずに抑え気味でありながら、いとも簡単に好タイムが出てしまった印象だ。因みに次点は前記牡馬ペアたちの24秒だから、1秒1も速い。2歳戦に強い種牡馬とはいえ、本番でどんな評価になるのかが楽しみになってきた。
2ハロンの最速タイムをマークしたマルカジュリエットの2013
なお、騎乗供覧には55頭中44頭が登場し、残り11頭は供覧後にダート800mの屋内馬場での公開になった。全馬揃って何一つトラブルなく調教が行なわれるのは、馬が生き物である以上望めないことであり、こうして毎年一定数の非供覧馬が出てくる。
ただし、見たところ、明らかに故障を抱えている馬はおらず、800m馬場では、それぞれキャンターでの調教を披露した。現時点で、ブリーズアップセール欠場が決定しているのは1頭のみ。その他は原則として上場を前提に20日に馬運車10台で中山競馬場に向け旅立つことになっている。
この日、受付テントでは日高育成牧場創立50周年を記念してグッズが配られ、休憩時や昼食時には軽食も用意された。何より天候に恵まれたのは本当に幸いであった。
日高育成牧場創立50周年記念グッズを配布していたテント
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。