前哨戦で強力なライバルの台頭がなかった英国3歳3冠緒戦二千ギニー展望

2015年04月22日(水) 12:00


英国に滞在していた筆者は期待を背負った人気馬が軒並み敗れる場面を目の当たりに

 先週お届けしたG1ケンタッキーダービー(d10F)に続いて、今週は同じ5月2日にニューマーケットで行われる英国3歳3冠緒戦のG1二千ギニー(芝8F)の展望をお届けしたい。

 先週、その英国に滞在していた筆者は、二千ギニーへ向けた一連のプレップレースで、期待を背負った人気馬が軒並み敗れる場面を目の当たりにすることになった。

 まずば、15日にニューマーケットで行われたLRヨーロピアンフリーハンディキャップ(芝7F)。ここに出走してきたのが、この段階でブックメーカー各社が二千ギニーへ向けた前売りでオッズ5〜6倍の2番人気に推していたフェイダーン(牡3、父ウォーフロント)だった。

 祖母が北米G2プリンセスS(d8.5F)勝ち馬スイートアンドレディという血統背景を持ち、キーンランドセプテンバーにて50万ドルで購買された同馬。昨年7月にヘイドックのメイドン(芝6f)を6馬身差で制してデビュー勝ちを飾り、2歳時はその1戦だけで終了したのだが、この時2着に退けたダッチコネクション(牡3、父ダッチアート)がその後、G3エイコムS(芝7F)に勝ち、G1ナショナルS(芝7F)で3着になったものだから、これは相当の能力の持ち主であると、クラシックの有力候補に浮上したのである。

 ところが、ヨーロピアンフリーハンデでフェイダーンは、1.5倍の1番人気を裏切り5頭立ての3着に敗退。管理するJ・ゴスデン師はレース後直ちに、二千ギニーの回避と、目標をロイヤルアスコットに切り替える旨を発表している。

 なお、同競走を制したホームオヴザブレイヴ(牡3、父スタースパングルドバナー)は、今後の馬の状態を見て二千ギニーの出否を決めるとしているが、ブックメーカー各社の前売りではオッズ26倍〜34倍という、伏兵扱いとなっている。

 翌16日にニューマーケットで行われたG3クレイヴンS(芝8F)。本番と同コース・同距離で行われる前哨戦に駒を進めてきたのが、16倍前後のオッズで二千ギニーの7〜8番人気に名を連ねていたモヒート(牡3、父ハイチャパラル)だった。

 牝馬ながらG1E.P.テイラーS(芝10F)を制したミスケラーを叔母に持ち。昨年のタタソールズ・クレイヴンブリーズアップセールにて2番目の高値となる80万ギニー(当時のレートで約1億4300万円)で購買された期待馬がモヒートだ。昨年10月にソールズベリーのメイドン(芝8F)を7馬身差で制してデビュー勝ちを果たし、素質の片鱗を覗かせて2歳シーズンを終えていた。

 そのモヒートの3歳緒戦となったのがクレイヴンSだったのだが、結果は、7頭立ての6番人気という伏兵クールカンパニー(牡3、父ジェレミー)が、発馬後まもなくハナに立つと、スローペースに持ち込んでの逃げ切り勝ち。1番人気(3倍)に推されたモヒートは、後方から追い込んだものの、勝ち馬から3.1/4馬身差の3着に敗れたのである。

 クールカンパニーもモヒートも次走は二千ギニーの予定だが、前者がオッズ21倍前後、後者がオッズ21〜34倍と、前売り市場における評価は穴馬の域を出ていない。

 そして、18日にニューバリーで行われたG3グリーナムS(芝8F)。ここに登場したのが、この段階でオッズ5.5〜6.0倍で二千ギニーの2番人気に推されていたアイヴァウッド(牡3、父ゼベディー)だった。

 祖母がG1オペラ賞勝ち馬キネアードという血統背景を持ち、タタソールズオクトーバーセールにて22万ギニー(当時のレートで約3600万円)で購買された同馬。2歳時は4戦し、G2リッチモンドS(芝6F)、G2ジュライS(芝6F)の2重賞を含む3勝をマーク。G1ミドルパークS(芝6F)でもハナ差の2着に健闘し、欧州2歳ランキング第3位となるレイティング117を獲得していた。

 実績的には、グリーナムSにおけるアイヴァウッドの2.625倍というオッズは妥当なものだったのだが、しかし、ここでもまた番狂わせが起きたのである。グリーナムSを制したのは、昨年のG1ミドルパークSでアイヴァウッドの後塵を拝して3着に敗れていたムハラー(牡3、父オアシスドリーム)。首差の2着が、2歳時G2シャンパンS(芝7F)、G2スーパーレイティヴS(芝7F)と、2重賞を制した実績のあったエズティドカー(牡3、父ダークエンジェル)。アイヴァウッドは好位を追走した後、勝負どころで追われての反応が鈍く、2着馬から4.1/2馬身離れた3着に敗れ、ファンを落胆させることになった。

 エズティドカー、アイヴァウッドは次走、二千ギニーに向かう模様で、前者が11〜13倍で3〜5番人気、後者が13〜15倍で3〜6番人気。英二千ギニーに向かうか仏二千ギニーに向かうか五分五分というムハラーは、15〜17倍のオッズで6〜7番人気となっている。

 一連の前哨戦で期待馬たちが軒並み敗れた結果、図らずも二千ギニーの前売り市場で被った1番人気に推されることになったのが、グレンイーグルス(牡3、父ガリレオ)である。

 昨年のG1愛千ギニー勝ち馬マーヴェラスの全弟という良血馬で、2歳時6戦して、G1ナショナルS(芝7F)を含む3重賞を制した同馬。4月1日付けのこのコラムで記したように、3月半ば頃から二千ギニーの前売りでこの馬の単勝に大量の買いが入るようになり、4倍前後までオッズが下がっていたのだが、前哨戦を通じて強力なライバルの台頭がなかったことで、4月20日現在で2.75倍〜3.0倍までオッズが下降している。

 グレンイーグルスを追う2番手グループには、既成勢力2頭と新興勢力1頭の、合計3頭が一団となっている。

 既成勢力の1頭は、昨夏のG2ヴィンテージS(芝7F)勝ち馬ハイランドリール(牡3、父ガリレオ)だ。祖母がG1AJCオークス勝ち馬サークルズオヴゴールドで、叔父にG1コーフィールドCなどG1・5勝のエルヴストローム、同じく叔父にG1ジョージライダーSなどG1・3勝のハラダサンがいるという、豪州血統を背景に持つ馬である。

 グレンイーグルスとハイランドリールは、いずれも愛国のエイダン・オブライエン厩舎所属で、ともに前哨戦を使わずに本番に向かうが、これも4月1日付けのコラムで記したように、3月29日にカラ競馬場でレースコースギャロップが行われ、いずれも素軽い動きを披露するなど、仕上がりは万全と伝えられている。

 2番手グループにいる既成勢力のもう1頭が、エルムパーク(牡3、父フェニックスリーチ)だ。デビュー2戦目のメイドン(芝7F)、続くLRストーンヘンジS(芝8F)を連勝した段階で、カタールレーシングがトレードで獲得。その後も、G2ロイヤルロッジS(芝8F)、G1レイシングポストトロフィー(芝8f)を連勝。レイティング117で欧州2歳ランキング第3位という、アイヴァウッドと同等の評価を受けた馬である。

 この馬もぶっつけ本番となるが、こちらは4月17日にニューバリー競馬場でレースコースギャロップを行い、着々とチューンアップされている。

 2番手グループを形成するもう1頭が、ゾウラック(牡3、父シャマーダル)だ。ハムダン殿下のシャドウェルによるオーナーブリーディングホースで、G1千ギニーやG1コロネーションSを制したガナーティの甥にあたる馬である。昨年10月にレパーズタウンのメイドン(芝7F)でデビュー勝ち。そして今季の緒戦となった、4月12日にレパーズタウンで行われたLRギニーズトライアルS(芝8F)も快勝し、デビュー2連勝を飾っている。

 管理するダーモット・ウェルド師によると、もともと厩舎の「ダービー候補」と目論んでいたのがゾウラックで、次走は5月10日のG3愛ダービートライアルS(芝10F)になる可能性もあるが、英二千ギニーに出てくれば、人気の一角に食い込むことになりそうである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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