2004年04月06日(火) 15:12
アメリカのケンタッキーダービー戦線が、依然として混迷を極めている。本番(5月1日)まで1カ月を切った段階でこれほど取り止めのない「ランフォーローゼス」というのは、ちょっと記憶にないほどだ。
カオスの始まりは、3月6日にサンタアニタで行われたG2サンラファエルSだった。2歳時、G1ハリウッドフューチュリティを含めて3戦3勝。ここも単勝2倍ちょうどの圧倒的1番人気に推されていたライオンハート(父テイルオヴザキャット)が、ゴール直前で3番人気インペリアリズム(父ラングフール)の強襲に合い2着に敗れた。今季初戦で2着なら悪くない結果にも見えるが、ケンタッキーダービーへ向けて距離延長が最大の不安と言われていた馬が、得意の1マイル戦で敗れるようではとてもランフォーローゼスの主役は務められぬと、アンティポストにおける評価を一気に下げた。
翌7日にフェアグラウンズで行われたG2ルイジアナダービー。デビュー2戦目のメイドンから3連勝でG3リズンスターSを制したグレイドポイント(父エーピーインディ)が1番人気に推されたが、見せ場なく8着に大敗。グレイドポイントはその後、ブルーグラスSを目指しての調整中に右膝を骨折。年内一杯休養することになった。ルイジアナダービーを勝ったのは、前走デビュー5戦目のメイドンで初勝利を上げたばかりの伏兵ウィンブルドン(父ワイルドラッシュ)。勝ち方は豪快だったが、ダービー戦線の主役を務められる存在かどうかは、もう1戦見なくてはというのが、前売り市場の評価だった。
3月13日にガルフストリームで行われたG3スウェイルSに、この時点でラスヴェガスのカジノが前売り1番人気に推していたユーロシルヴァー(父アンブライドルズソング)が登場。前年のG2レーンズエンド・フューチュリティの勝馬ユーロシルヴァーは、今季初戦となった前走ガルフストリームの一般戦を快勝。本番までの消耗を出来るだけ少なくするために、ここも同日のG1フロリダダービーを避けてG3のスウェイルSに廻ってきたのだが、ウィンドットコマ(父ストラッガー)の2着に敗退。相手の軽いレースに廻って負けているようでは、とてもダービー馬の器ではないと、これも前売りの人気を落とした。その後、G1ブルーグラスSでの雪辱を目指していたユールシルヴァーは、熱発のアクシデントでここを回避。結局ケンタッキーダービー出走そのものを断念することになった。一方、スウェイルSの勝馬ウィンドットコマも、3月23日の調教中に右前球節を骨折するアクシデントを発症。残念ながら予後不良で安楽死処分となった。
3月13日にガルフストリームで行われたG1フロリダダービーは、前走G2フォンテンオヴユースSで重賞3連勝を飾ったリードザフットノーツ(父スモークグラッケン)が単勝2倍の本命に推されたが、4着に敗退。勝ったのは、単勝38.4倍で6番人気だったフレンズレイク(父エーピーインディ)という波瀾となった。
翌14日にサンタアニタで行われたG2サンフェリペSでも、昨年のBCジュヴェナイル勝馬アクションディスデイ(父クリスエス)が7着に敗れる大波瀾。しかもレース中に他馬と接触して外傷を負って引き上げてきたため、次走に予定をしていたサンタアニタダービーを回避することになった。ここを制したのは、前走サンタアニタの特別シャムS3着のプリーチングアットザバー(父シルヴァーチャーム)。
3月20日にアケダクトで行われたG3ゴーサムSでも、メイドン、一般戦と連勝して1番人気に推されたエディントン(父アンブライドルド)が3着に敗退。勝ったのは3番人気のサラトガカウンティ(父ヴァリッドイクスペクテイションズ)だった。
翌21日にターフウェイパークで行われたG2レーンズエンドSには、昨年のG1シャンパンSの勝馬で、前走今季初戦の一般戦を楽勝したバードストーンが登場。単勝1.6倍の圧倒的1番人気に推されたが、5着に大敗。勝ったのは、6番人気の伏兵シニスタージー(父マティージー)だった。
そして、4月3日に行われたG1サンタアニタダービー。サンラファエルSの勝馬インペリアリズム、ルイジアナダービーの勝馬ウィンブルドン、G2サンタカタリーナSの勝馬で前走サンフェリペS2着のセイントエイヴリル(父セイントバラード)、サンタアニタでメイドン・一般戦と連勝のロックハードテン(父クリスエス)らが出走。この中からいよいよ戦線をリードする存在が生まれるかと思われたのだが、勝ったのは、前走サンラファエルSでは6着に大敗し、ここは単勝31倍というブービー人気だったキャッスルデイル(父パントレセレブル)。かくして、西海岸はついに、誰が地域の代表としてチャーチルダウンズに赴くのかすら定かにならぬまま、主要プレップレースを終了したのである。
いやはや、これほど人気馬が負け続けるクラシック戦線というのも珍しかろう。
今週末にはいよいよ、東海岸と中部地区で3つの最終プレップが行われる。キーンランドのG1ブルーグラスSには、ライオンハート、プリーチングアットザバー、バードストーン、アクションディスデイらが出走を予定。一方、アケダクトのG1ウッドメモリアルSには、シャムSの勝馬マスターデイヴィッド(父グランドスラム)、エディントン、シニスタージーらが登場。そしてオークローンパークのG2アーカンソーダービーには、ルイジアナダービー2着のボレゴ(父エルプラド)、前走の特別レベルSを含めて5連勝中のスマートリージョーンズ(父イルーシヴクオリティ)らが出走する。
これらを経て、ようやく本番で主役を務める馬が炙り出されるのか、或いは、五里霧中のまま本番を迎えるのか。いずれにしても、予想家泣かせのケンタッキーダービーとなりそうだ。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。