2015年05月06日(水) 12:00
言うまでもなく、1番人気に応えての勝利を讃えるという点では万人が一致しており、ましてや不利と言われる外枠(15番枠)を克服してつかんだ栄光を、貶める声が挙がっているわけでは決してない。
関係者を惜しみなく称賛する声も、絶えることなく挙がり続けている。
アメリカンフェイローを生産し所有しているアーメド・ザヤット氏は、09年のパイオニアオヴザナイル、11年のネーロ、12年のボディマイスターと、過去6年で実に3度も2着に惜敗していた馬主だ。本人の「今度こそ」の思いは強烈だったはずで、「そろそろ順番が回ってくるべき」と周囲も思っていた人物だった。
ザヤット氏は実は、一度はアメリカンフェイローを手放す決意をし、13年のファシグティプトン・サラトガセールに同馬を上場したのだが、期待したほどには価格が上がらず、結局は30万ドルで買い戻している。将来、2歳チャンピオンになり、なおかつダービー馬となる馬としては、30万ドルというのは確かに法外に低い評価だが、一度は売る決意をした馬でのダービー制覇というのは、途方もない幸運と言えそうである。
これが4度目のダービー制覇となったボブ・バファート調教師の手腕にも、言うまでもなく極上の評価が下されている。97年のシルヴァーチャーム、98年のリアルクワイエット、02年のウォーエンブレムと、世紀をまたいで6年間に3勝し、「ダービー・ボブ」とのニックネームを与えられた時代には、6勝というケンタッキーダービーの調教師最多勝を簡単に塗り替えるのではないかと言われたが、世の中はそれほど甘くはなく、しかし西海岸のトップトレーナーの地位は揺るぐことなく維持し続け、13年ぶりにダービーのウィナーズサークルに帰って来たのだ。ちなみに3着馬のドルトムントも彼の管理馬で、どこぞやにしまい込んで埃をかぶっていた「ダービー・ボブ」のニックネームも、再び陽の目を見ようとしている。
更に、手綱をとったヴィクター・エスピノーザ騎手は、カリフォルニアクロームで制した前年に続き、2年連続でのダービー制覇となった。連覇達成は史上6人目の快挙で、更に02年にもウォーエンブレムで勝っているエスピノーザは、歴代で7人しかいない「ダービー3勝騎手」の一人となった。
そして、アメリカンフェイローが克服したのは、外枠という不利ばかりではなかった。アメリカンフェイローの父パイオニアオヴザナイルは、前述したように、09年のケンタッキーダービー2着馬だ。そして、その父エンパイアメーカーは、03年のケンタッキーダービー2着馬である。更に言えば、12年のケンタッキーダービー2着馬ボディマイスターもまた、エンパイアメーカーの産駒で、サイヤーラインは明らかに「2着の呪縛」に取り憑かれていたのである。遂にこの系統からケンタッキーダービー馬が出たことは、現在日本で供用中のエンパイアメーカーにとっても朗報である。
と、ここまではポジティヴな側面を書き連ねてきたわけだが、「評価が分かれている」からには、ネガティヴな側面も当然のことながら取り沙汰されている。
そして、ケンタッキーダービーが終わると判で押したように、「気の早い話ながら」と前置いた上で高まる「3冠達成への期待」が、今年はそれほど盛り上がっていないのである。「この馬は本当に強いのか?!」というネガティヴ派の論拠となっているのが、勝ち時計と道中のラップタイムだ。
走破タイムの2分3秒02というのは、過去20年では16番目という、遅い勝ち時計である。今年より遅かった4年のうち、04年と10年はスロッピーという極端な道悪だったから、良馬場での2分3秒台というのは、はっきり言って物足りない時計である。
全体の時計が掛かった背景にあったのが、上りの遅さだった。北米の計時は2Fごとで、今年のケンタッキーダービーの上がり2Fは26秒57だった。ちなみに言えば、勝ったアメリカンフェイローは道中3番手、2着のファイアリングラインが道中2番手、3着のドルトムントが逃げた馬で、つまりは先行した馬たちで決まった前残りの競馬だった。前に行った馬たちが、直線に向くと1F平均で13秒以上かかるほど「脚が止まった」のに、後から差してくる馬がいなかったのだ。
前半のラップを見ると、最初の4F=47秒34は、過去10年では遅い方から3番目。6F通過の1分11秒29は遅い方から4番目で、序盤のペースは平均よりも緩やかであった。言葉を換えれば、前半での無理がたたって後半バテたわけではないのだ。
ベイヤー指数は105と、それほど低いものではなく、今年の出走馬の中では、アメリカンフェイローの力が頭2つは抜けていたことは間違いないが、しかしレース全体の水準は、凡戦と言ってもよいほど低いものだったのではないか、という声も、聞こえないわけではないのである。
ケンタッキーダービーの上位3頭はいずれも、G1プリークネスSに向かう予定だ。2冠目も同じ顔触れで決まるのか、ダービー敗戦組の巻き返しはあるのか、はたまた別路線組の台頭はあるのか、定かなことは言えないというのが現段階の実情と言えそうだ。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。
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