2015年08月26日(水) 12:00
まずは、「近年最大の番狂わせ」と言われる大波乱が起きたのが、19日(水曜日)に英国のヨークで行われたG1インターナショナルS(芝10F88y)だ。
既に結果をご存知の読者も多いかと思うが、オッズ1.44倍の1番人気に推されていた英国ダービー馬ゴールデンホーン(牡3、父ケイプクロス)が2着に敗れ、デビューから継続していた連勝が5でストップ。勝ったのが、オッズ51倍という伏兵の牝馬アラビアンクイーン(牝3、父ドゥバウィ)だった。
古馬との初対決となったG1エクリプスS(芝10F7y)で、強い勝ち方をして評価を更に挙げたのち、G1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝12F)は道悪のためにレース当日にスクラッチしたゴールデンホーン。G1インターナショナルS当日のヨークも、前日の雨で馬場はGood to Softに悪化。今季に入ってマイルG1を3連勝中だったグレンイーグルス(牡3、父ガリレオ)が出走を取り消した一方、予定通り出走したのがゴールデンホーンだった。
逃げ馬不在だった前走G1エクリプスS(芝10F7y)では、デビュー以来初めてハナを切ったゴールデンホーンだったが、ここは陣営が13日の登録ステージで7万5千ポンド(約1457万円)を払い、同厩のディックダウティワイリー(セン7、父オアシスドリーム)をペースメーカー役として追加登録。ゴールデンホーンは差しに徹する布陣が敷かれていた。
ところが、そのディックダウティワイリーはダッシュが鈍く、1F進んだ辺りでようやくハナに立ったのだが、一方で、掛かり気味に3〜4番手を追走することになったのがゴールデンホーンだった。行きたがる素振りを見せたのは、前走で逃げた「後遺症」であろうか。
それでも、道中2番手から残り2Fで先頭に立ったアラビアンクイーンの外に、残り1Fで馬体を併せて行ったゴールデンホーンが一旦は頭一つ前に出たのだが、そこからアラビアンクイーンがファイトバック。なんとゴールデンホーンを首差競り落として、優勝を飾ったのである。
前走のG1エクリプスSで3.1/2馬身差の2着に退けたザグレイギャツビー(牡4)が、ここでもゴールデンホーンから3.1/4馬身差の3着に入っており、決して得手ではない馬場だったことや、前半折り合いを欠いたことを考慮すれば、ゴールデンホーン自身はよく走っていると、管理するJ・ゴスデン調教師は分析している。となると、勝ったアラビアンクイーンの大駆けを称賛する他あるまい。
09年・10年とG2ランカシャーオークス(芝11F200y)を連覇したバーシバの、初めての仔になるのがアラビアンクイーンだ。
2歳時は6戦し、ニューマーケットのG2ダッチェスオヴケンブリッジS(芝6F)を含む2勝。唯一挑んだG1のチーヴァリーパークS(芝6F)では6着に敗れている。3歳緒戦のG3プリンセスエリザベスS(芝8F114y)を快勝し、幸先の良いシーズンのスタートを切ったが、以降はG1を3連戦し、G1コロネーションS(芝8F)が5着、G1ファルマスS(芝8F)が7頭立て7着、G1ナッソーS(芝9F192y)が勝ち馬から3.3/4馬身離された3着に敗れていた。
ペースメーカーのディックダウティワイリーに次ぐ人気薄だったのも、頷ける成績である。
実質的には単騎逃げのような形となった展開が、第一の勝因であることは間違いなかろう。そして、キングジョージにおけるポストポーンドを見た時にも感じたことだが、競り合いになった際にドゥバウィ産駒が見せる勝利への執着心には、驚かされるばかりである。
アラビアンクイーンは今後、10月17日にアスコットで行われるG1ブリッティッシュシャンピオンズ・フィリーズ&メアズ(芝12F)を目標に調整される予定だ。
こちらは、オッズ8.5倍の3番人気だったから、牡馬に混ざっても相応に実力を評価されていた馬だった。
タタソールズ10月1歳市場にて1万6千ギニー(当時のレートで約212万円)という廉価で購入されたメッカズエンジェルは、3歳9月にニューバリーのG3ワールドトロフィー(芝5F34y)を制して重賞初挑戦初制覇。シーズンオフをはさんで、今季初戦となったロンシャンのG3サンジョルジュ賞(芝1000m)を制して重賞2連勝。前走カラのG2サファイアS(芝5F)は2着だった。
逃げたのは、北米から遠征してきた2歳牝馬のアカプルコ(牝2、父ダークエンジェル)で、残り300mを迎えて後続に2馬身ほどの差をつけた同馬が逃げ切り態勢に入ったかに見えた刹那、好位から鋭い末脚を繰り出したのがメッカズエンジェルで、アカプルコを捉えた後に更に2馬身抜ける強い勝ち方でG1初制覇をモノにしている。
メッカズエンジェルの次走は、10月4日にロンシャンで行われるG1アベイユドロンシャン賞(芝1000m)で、ここで再び牡馬の一線級と対戦する予定だ。
そして、牝馬週間のトリを務めたのが、22日に北米西海岸で行われたG1パシフィッククラシック(d10F)を圧勝したビホールダー(牝5、父ヘニーヒューズ)だった。
パシフィッククラシックと言えば、3月のG1サンタアニタH、6月のG1ゴールドC@サンタアニタ(旧ハリウッドGC)と並ぶ、西海岸古馬ダート中距離路線の中核をなす一戦だ。
昨年のG1BCクラシック(d10F)勝ち馬バイエルン(牡4、父オフリーワイルド)、今年のゴールドC@サンタアニタ(d10F)の1着馬ハードエーシス(牡5、父ハードスパン)と2着馬ホッパーチュニティ(牡4、父エニーギヴンサタデー)、前哨戦のG2サンディエゴH(d8.5F)を含む重賞3勝馬で、G1サンタアニタH3着、G1ゴールドC@サンタアニタ3着のキャッチアフライトといった、西海岸を代表する古馬たちが顔を揃えた中、ファンがオッズ3.0倍の1番人気に支持したのは、出走10頭中唯一頭の牝馬だったビホールダーだった。
2歳時・3歳時と、2年続けて全米牝馬チャンピオンに選出されているビホールダー。8月1日にデルマーで行われたG1クレメントハーシュS(d8.5F)を7馬身差で制して7度目のG1制覇を果たした後、機は熟したと見た陣営が、パシフィッククラシック参戦プランを表明したのだった。彼女が牡馬と走るのはこれが初めてで、そして10Fの距離を走るのもこのレースが初めてだった。
不安材料も囁かれていた中で行われたパシフィッククラシックで、ビホールダーは、関係者を含む全員の期待を上回る快走を見せた。
前半は3番手で折り合った彼女は、3コーナーで一気に加速して先頭に立つと、そのまま独走態勢を築いてゴールへ。中団から追い込んだキャッチアフライトに、なんと8.1/4馬身という決定的な差を付けて8度目のG1制覇を果たしたのである。
次走は、自身の3連覇がかかるG1ゼニヤッタS(d8.5F、9月26日、サンタアニタ)が有力で、その後はブリーダーズCへ。ファンの関心は早くも、ビホールダーが牝馬限定のG1BCディスタフ(d9F)に行くのか、G1BCクラシック(d10F)に向かい再び牡馬勢に挑むのかに注がれている。
パシフィッククラシックでビホールダーが得たベイヤー指数114は、今季の北米競馬では最高の指数である。ちなみに、アメリカンフェイローが持つ最高のベイヤー指数は、8月2日のG1ハスケル招待を制した際に得た109だ。ビホールダーvsアメリカンフェイローが見てみたいというファンの期待は、急速に高まっている。
凱旋門賞3連覇を目指すトレヴ(牝5、父モティヴェイター)、16日のG1ジャックルマロワ賞(芝1600m)を快勝したエゾテリーク(牝5、父デインヒルダンサー)らを含めて、いよいよシーズンのクライマックスに突入しようとしている北半球の競馬は、牝馬の存在なくして語れぬものとなりそうである。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。
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