2015年10月28日(水) 12:00 29
筆者は実は、メルボルン・スプリング・カーニヴァルの、ムーニーヴァレイ・ラウンドのハイライトとなるG1マニカトSとG1コックスプレートを取材して帰国したばかりなのだが、街中ではそこかしこにメルボルンCのバナーが翻り、テレビのニュースショーでも普通に競馬の話題が取り上げられるなど、国を挙げたイベントへのカウントダウンが着々と進んでいた。
“The race that stops a nation=(国家の動きを止めるレース)“とまで言われる、オーストラリアにおける国民的行事に、本命馬として駒を進めることが濃厚なのが、日本調教馬のフェイムゲーム(牡5、父ハーツクライ)である。
この馬の参戦が決まって以降、天皇賞・春で2着となった内容を高く評価され、フェイムゲームはブックメーカーが売る前売りで終始1番人気の座にあった。だがそれでも、当時はオッズで言えば10倍を切る辺りで、しかもロイヤルアスコットのG2ハードウィックSを圧勝していた英国調教馬スノウスカイ(牡4)らと横並びでの1番人気だった。ところが、本番まで1週間を切った今、フェイムゲームはオッズ4倍前後で抜けた1番人気に推されている。
人気上昇の根拠となったのが、豪州緒戦となった10月17日のG1コーフィールドC(芝2400m)だった。ご承知のように同馬が6着に敗れた一戦だが、最終追い切りにまたがったザック・パートン騎手が「2400mはこの馬には短いと思う」とコメントしていたこと、4コーナーを最後方で廻りながら直線だけで6着まで追い上げたことなど、レースの結果ではなく内容が評価され、負けて人気が上昇することになったのだ。
そのレース振りに関して、騎乗したザック・パートンが、レース直後に裁決委員に呼ばれるという局面があった。末脚を武器にする馬ゆえ、中団より後ろでレースを進めたことは当然として、ペースが上がった4コーナーの手前でポジションを更に落として、一旦は最後方まで下がってしまったことに関して、裁決委員は鞍上のザック・パートンが「勝つために全力を尽くす義務を怠ったのではないか」との疑念を持ったのである。
そういう脚質の馬であることを説き、裁決委員も最終的には納得したのだが、裁決委員だけでなくファンの目にも、コーフィールドCが「本番へ向けて力をセーヴしつつ、どれだけの脚を使うのかを測った」かのごとき内容に見えたことが、人気上昇の背景にある。ましてや、本番の3200mという距離こそがこの馬の本分だ。デルタブルース以来となる日本馬によるメルボルンC制覇が、現実味を帯びていることは間違いないと思う。もう1頭の日本調教馬ホッコーブレーヴ(牡7、父マーベラスサンデー)は、オッズ17~21倍の9~11番人気となっている。コーフィールドCは10着だったが、外枠から出て、終始馬群の外を廻らされたことを鑑みれば、着順ほどは負けていない競馬だった。
現地到着後、フェイムゲームが意欲的な調教を見せていたのに対し、軽めの調整に終始していたのがホッコーブレーヴで、そういう意味で、前走からの上積みが期待できるのがホッコーブレーヴだ。オッズに表れているほど、上位人気馬たちとの差はなく、馬券的な妙味があるのはホッコーブレーヴのように思う。
ブックメーカー各社が7.5~8.0倍のオッズを掲げて2番人気に推すのが、英国からの遠征馬トリップトゥパリス(牡4、父シャンゼリゼ)だ。今年に入って強くなった上がり馬で、重賞初挑戦となったサンダウンのG3ヘンリー2世S(芝16F78y)で2着となった後、アスコットのG1ゴールドC(芝20F)を制して一気にこの路線の頂点に立つことになった。その後、グッドウッドのG2グッドウッドC(芝16F)がビッグオレンジ(セン4、父デュークオヴマーマレイド)の3着、続くヨークのG2ロンズデイルC(芝16F88y)がマックスダイナマイト(セン5、父グレートジャーニー)の5着と、いずれもメルボルンCに出走を予定している馬たちの後塵を拝し、能力とともに、3月から休まずに使ってきた調子の波が下降期に入ったのではないかと危惧されたのだが、これを払拭したのがG1コーフィールドCだった。この馬にとっても2400mは明らかに短かったのだが、上手に競馬を進めゴール前に来ると鋭い脚を使って、勝ち馬モンゴリアンカーンに半馬身差に迫る2着に健闘。評価を上げることになった。ラドブロークスがトリップトゥパリスと横並びで2番人気に推すのが、コーフィールドCの勝ち馬モンゴリアンカーン(牡4、父ホーリーローマンエンペラー)だ。
3歳春にニュージーランドでデビューし、エラズリーのG1ニュージーランドダービー(芝2400m)を制した後、オーストラリアに渡ってランドウィックのG1オーストラリアンダービー(芝2400m)も手中にしている。
今季は、緒戦となったフレミントンのG1マカイビーディーヴァS(芝1600m)7着、コーフィールドのG1アンダーウッドS(芝1800m)4着の後、G1コーフィールドS(芝2000m)で勝ち馬クライテリオンから半馬身差の3着に健闘。ペースが上がった4コーナーで一旦はついて行けない局面がありながら、直線で外を追い込んだ内容は悪くなく、そこから連闘で臨んだG1コーフィールドCでは1番人気に推され、これに見事に応えて3度目のG1制覇を果たしている。
そのレース振りからは、初めて走る3200mを問題なく克服しそうに見えるが、一方で、父がG1フェニックスS(芝6F)やG1ジャンルクラガルデル賞(芝1400m)を制しているホーリーローマンエンペラーで、母の父も1600mまでしか勝ち鞍のなかったセンテインという血統背景は、距離延長を歓迎していない。
3番人気以下は、10~20倍の間に10頭近い馬たちがひしめく大混戦となっているが、そんな中、ここへ来て評価が上がっているのがアムララー(牡5、父テオフィロ)だ。
愛国産馬で、英国のミック・チャノン厩舎からデビューし、4歳8月にヘイドックのG3ローズオヴランカスターS(芝10F95y)で重賞初制覇を飾った後、豪州に移籍。10月10日にコーフィールドで行われたG2ハーバートパワーS(芝2400m)を3馬身差で快勝して豪州重賞初制覇を果たしている。
実はその段階では、同馬はメルボルンCでは除外の対象だったのだが、その後、優先出走権のあった馬たちの回避があって、出走が確定。前走の内容が良かったことに加え、53.5キロのハンデが魅力で、穴人気となっている。
現地で調教を見た感じでは、ヨークのG2ロンズデイルC(芝16F88y)を勝っての参戦となる愛国調教馬のマックスダイナマイト(セン5、父グレイトジャーニー)、G1セントレジャー(芝14F132y)で2着となっての参戦となる、これも愛国調教馬のボンダイビーチ(牡3、父ガリレオ)あたりの調子が良さそうに見えた。
メルボルンCの放映は、現段階では未定だが、レース当日の夜22時からグリーンチャンネルで放送される「地・中・海ケイバモード」の中で紹介すべく、準備が進められている。グリーンチャンネルのホームページなどでご確認いただき、放送が決まった暁にはぜひ、ご覧をいただきたいと思う。
合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。