募集馬セレクトツアー

2004年06月29日(火) 15:17

 北海道の最も過ごしやすい季節と言えば、6月と9月ということになるだろうか。ともに「暑くもなく寒くもない」ほどほどの気温。からっとした湿度。一年中こんな気候ならば本当に良いのだが、と毎年思う。

 さて、この行楽には絶好の季節に毎年恒例となっているのが、いくつかのクラブ法人の募集馬見学ツアーである。その中の一つ「U」のセレクトツアーが、6月中旬の金土日、二泊三日で実施された。不肖、私も今年同クラブの募集馬の写真撮影を受け持つ(といっても1頭だけだが)機会があったので、自分の撮影した1歳馬の「売れ行き」が気になるところ。先ごろ届いた同クラブの募集馬パンフレットには、計55頭の1歳馬が掲載されている。

 「U」社は1986年に設立。翌87年より募集を開始し、今年で(たぶん)18期目の募集となる計算だ。当初、会員約500人でスタートしたがその後順調に増えつづけ、現在は約5400人に達するとか。

 クラブ馬主は大別すると、二つに分かれる。クラブで購入した馬を募集するタイプと、もう一つは「U」社のような「生産者拠出型」である。つまり、あらかじめクラブの株主である生産者が、それぞれの生産馬を「提供」するタイプの方法だ。

 前者の代表的な存在は、ラフィアンであろうか。岡田繁幸氏の選んだ馬をラインナップし、購入価格のほぼ倍で募集する。カリスマ的存在の岡田氏が自ら選んだ馬をそろえている点で人気が高い。さらには今年、コスモバルク効果もあり、かなり会員を増やしたとも聞く。

 さて「U」社の今年の募集馬は、価格帯で言うと、1000万円台が圧倒的に多いが、安い馬で399万円、高い馬では5250万円などというのもいて、かなり大きな差がある。

 人気は、その安い馬と高い馬の双方に集まっているらしく、ステイゴールド牝馬(399万円)とラムタラ牡馬(499万円)などは、ともに「抽選になる」ほどの人気だという。また5250万円のブライアンズタイム産駒(牡)も人気があるそうだ。

 私が撮影した知人の生産馬はサッカーボーイ産駒。価格は1470万円。募集口数は200口。セレクトツアーでの展示会にて、早くもその場で何口か申し込みがあったそうだが、ツアー終了後の次の週、こともあろうにこの馬の兄が函館で新馬戦を快勝した。クラブ募集馬の場合、こういう追い風はかなり大きな力となる。数日前に生産者のTに聞いたところでは「もう四分の一は埋まってきている。このままのペースだと満口になるのでは?」とのこと。未売却の口数は自身で持つしかないわけで、満口というのは理想的な展開である。

 デビューは来年だが、後は競走成績如何で、「楽しめる」か「苦しめられる」かが分かれる。走れば走っただけ、会員も生産者も潤うのだから、これは言うことなしなのだが、問題は、未出走に終わったり、デビューしても勝ち上がれなかったりした時。残念ながら、中央競馬の場合、デビューした新馬のうち勝ち上がれるのはわずか三分の一程度。後の三分の二は、よほどのことがない限り3歳のうちに登録抹消となる。その場合の「補償制度」(未出走60%、未勝利40%)があることを念頭に置かなければならない。

 加えて、生産者拠出型のクラブの場合は、前もって「宣伝広告費」として1頭あたり160〜200万円程度の支払いが生産者に義務付けられる。願わくば馬代金を遥かに凌駕するほどの活躍を、と生産者は祈るような気持ちで馬を送り出すのである。走れば良し、走らなければ相当金額の持ち出しなのだから、ある意味では生産者自身にとっても、これはかなり大きな「賭け」とも言える。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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